「いつまでも学生気分でいるな!」と叫ぶ上司こそ、学生時代の価値観を捨て切れていない:”幼稚性”から紐解く「日本的マネジメント」の問題点【後編】(4/4 ページ)
「上司を飛ばして話を進めるな」「会社の休憩時間にモノを食べるな」「上司の決裁を受けるときは、ハンコを傾けて押せ」――。こうした非合理なルールが、いまだ日本企業では常識のようにはびこっている。働き方改革の支援を手掛けてきた沢渡あまね氏に今後のビジネスパーソンに求められる考え方を聞いた。
若い世代の柔軟な考え方が、日本の希望
――沢渡さんは、日本の組織マネジメントやビジネスパーソンの問題点を、“幼稚性”という観点から説明しています。そのような考えをもったきっかけは何だったのでしょうか。
世の中の変化のスピードが上がる中で、日本企業のマネジメントが、企業や個人の成長の足を引っ張っていることに気付き、疑問を感じたのです。
全員が同じ時間に出社しなければいけない、同じ場所にいないと不安だからテレワークにできない――。そういう話を聞いていて、幼稚と感じた一方で、これがかつての統制型(ピラミッド型)に最適化された働き方であったことにも気付きました。
――日本企業が未来に適応するためのポイントとは何でしょうか?
日本の組織が変わるうえで、私は若い人の存在がとても大きいと考えています。ただ、そうした若者の主体性を、旧態依然の価値観をもつ上司や先輩が奪っている状況も、まだ見えます。
先日、新人研修の休憩時間に、アイスクリームを食べた新人が叱られた話を聞きました。「研修を受ける態度としてけしからん」という理由です。研修中は新人らしく、目立つことはするな、ということでしょうが、これも幼稚な考えだと言わざるを得ません。
そもそも、休み時間をどう過ごそうが個人の自由です。それに、休憩時間に甘いものを食べてリフレッシュすれば、研修の効果を高められるでしょう。適度な糖分が、脳を活性化させるとも言われています。そう考えると、新入社員の行動はむしろ合理的です。
時々、若手に対して「いつまでも学生気分でいるんじゃない!」と叱る上司や先輩がいますが、私に言わせれば、もうそのフレーズそのものが学生気分の表れです。気合や根性を押し付け、目的も理解せず、「ルールだから」「常識だから」とにかくやれ。これは部活動と同じですよね。時代や環境を鑑みれば、若い人の考えのほうが合理的な場合も多々あります。
――若い人は、日本人の古い価値観にとらわれていないからでしょうか。
そうですね。今の若い人を見ていると、いい意味で気遣いができていて、合理的です。最近の都会の幼稚園や小学校を見ていると、外国人でも転校生でも構わず仲良くやっている子たちも多い。それが当たり前だから、いちいち気にしない。先輩だから威張っていいとか、個性的な人を村八分にするような古い価値観はありません。こういう若い人たちこそが、日本の希望だと思います。
日本のマネジメントの在り方を考えるなら、今の若い人の価値観に合わせていくことも大事です。若い世代が正しく声をあげ、主体性をもって非合理なルールを突破し、大企業の役員室にいるような昭和のおじさんを少数派にしていけば、まだまだ日本が成長する可能性はあります。
最後に、1つだけおわびを言わせてください。今回、私は日本の組織が抱える幼稚性を指摘し、「幼稚園児や中学・高校の部活のようだ」と言いました。でも、今の若い人は、昭和のおじさんよりもむしろ大人です。全国の幼稚園児や、中学・高校生のみなさまに深くおわび申し上げます。
著者プロフィール
小林義崇(こばやし よしたか)
1981年生まれ、福岡県北九州市出身。埼玉県八潮市在住のフリーライター。西南学院大学商学部卒。2004年に東京国税局の国税専門官として採用。以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務などに従事する。2014年に上阪徹氏による「ブックライター塾」第1期を受講したことを機に、ライターを目指すことに。2017年7月、東京国税局を辞職し、ライターとして開業。Twitter、Webサイト。
著作に『確定申告〈所得・必要経費・控除〉得なのはどっち? 元国税専門官が教える! 』(河出書房新社)、『すみません、金利ってなんですか? 』(サンマーク出版)など。
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