ローカル鉄道40社を訪ねる「鉄印帳」が大ヒット 「集めたい」心を捉える仕掛け:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
第三セクター鉄道40社が参加する「鉄印帳」が好調だ。初版は各社ですぐに完売した。「Go To トラベルキャンペーン」よりも旅人の背中を押す仕掛けだ。鉄道では“集める”イベントが多く、人気も高い。成功する施策は、趣味の本質を捉えている。
発案は「くま川鉄道」、現在は全線不通
鉄印帳の発案者は、熊本県の「くま川鉄道」の社長、永江友二氏だ。彼は8月10日に開催されたオンラインイベント「超鉄道サミット2020 ニコニコネット超会議2020夏」にゲスト出演していきさつを語った。
永江氏は、かねてより鉄道会社が集客に苦心する中で、「鉄カード」(後述)のように「何かをみんなでやっていく」というつながりが大事だと考えていた。そんなとき、娘さんと「御朱印帳が流行っている」という話題になり、鉄印帳を思い付く。1年以上前の話だ。
そこで、第三セクター鉄道等協議会に相談したところ、事務局からは「そういう会ではない」とつれない返事だった。第三セクター鉄道等協議会は、全国40社の第三セクター鉄道が加盟しており、年2回の総会が行われる。主に補助金、保険、安全管理、税務などで共通認識を持つための勉強会という位置付けだ。それでも永江氏は「せっかく40社が集まっているから」と、2019年当時の会長だった肥薩おれんじ鉄道の社長(出田貴康氏)に相談した。
19年7月の協議会総会で議事が終わりかけたとき、議長の肥薩おれんじ鉄道より「くま川鉄道さんから提案があるようです」と水を向けられ、永江氏がアイデアを披露。参加社から「面白い、やろう」と賛同を得た。それを聞いた読売旅行社が「これは売れる」と「鉄印帳」の発行元に立候補した。当初は大型連休を見込んで4月から開始する予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染症が拡大傾向のため延期。緊急事態宣言解除後に仕切り直し、6月19日発表、7月10日開始となった。
開始が迫った7月4日、令和2年7月豪雨によってくま川鉄道は被災し全線不通となっている。球磨川にかかる鉄橋が流され、車両も浸水。復旧の見通しが立たない。協議会はくま川鉄道を気遣い、同社での実施を遅らせようかという話もあったという。しかし永江社長は「くま川鉄道はお客さまに来てもらえる状況ではない。それでもみんなと一緒にスタートしたい。特例として、鉄印帳のネット販売を認めてほしい」と要望を伝え、了承を得た。その後のヒットは前述の通り、たちまち全社で完売となり、増刷、即完売という状況だ。
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