バイドゥ、アリババ、テンセント……「ITジャイアント」生み出した中国企業に学ぶ“超高速ビジネスの作り方”:プロトタイプシティ 深センと世界的イノベーション (3/3 ページ)
現代は、手を動かして試作品を作る「プロトタイプ」の考え方が奏功し、「まずは手を動かす」人や企業が勝利する時代だ。中国企業の新規事業立ち上げの根底にある「スピード感と軽さ」について新進気鋭の起業家が解説する。
オープンソースとモジュール化
こうした特性はソフトウェアの世界に顕著だが、ハードウェアとて例外ではない。クリス・アンダーソンの名著『MAKERS』では、「ビットからアトムへ」という言葉で、ソフトウェアの世界で起きたオープンソースの流れがハードウェアでも繰り返されると明かしている。「3Dプリンタで、どんなモノでも簡単にコピーできる」という話に誤解されたこともあり、同書のテーゼに疑問を持っている人も多いようだが、ソフトウェアと同レベルではないにせよ、ハードウェアでもソフトウェア同様のカジュアルな開発ができるようになったのは事実だ。
ソフトウェアにおけるオープンソースに匹敵する、ハードウェア開発の革命的コンセプトがモジュール化だ。複数の部品を組み合わせたモジュールとして中核パーツが提供されることで、開発のハードルは大きく下がった。さらにモジュール・メーカーは追加してどんな部品を組み合わせれば完成品になるかという設計も、「リファレンスモデル」として提供するようになった。このリファレンスモデルをそのままそっくりまねれば製品が大方開発できてしまう。オープンソース・ソフトウェアをコピーするのと同様に、だ。
代表例がPCだ。インテルやAMDが提供するCPU、そのCPUに適合したメモリや無線LANモジュールなど、主要部品の組み合わせがリファレンスとして提供されている。PCの部品全てを一社が開発しようと思えば莫大(ばくだい)な研究開発費が必要となるが、各企業がそれぞれの持ち分を発揮する協業によって、効率が上がった。スマートフォンではクアルコムやメディアテックがCPUやカメラ制御モジュール、通信処理チップやAI演算機能など、多くの機能が統合されたSoC(System‐on‐Chip)という部品を提供するようになり、さらにハードウェアの開発が容易になった。
中国でみかける奇妙なICTデバイスの大半がスマートフォンやタブレットの部品を流用した機器であり、これらの開発における技術的なハードルはさほど高くない。
著者プロフィール
澤田翔(さわだ しょう)
1985年生まれ。連続起業家、エンジニア。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学中にアトランティスの創業に参画。 2011 年、ビットセラーを創業。スマートフォンアプリを手がけて2015年にKDDIに売却。世界の決済サービスやニューリテール (小売業のIT融合) に造詣が深く、インターネットの社会実装をテーマにした「インターネットプラス研究所」を2018年に設立。中国デジタル化の最新動向に詳しく、レポートも多数執筆している。
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