リニア駆け引きの駒にされた「静岡空港駅」は本当に必要か:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
富士山静岡空港を利用した。コンパクトで機能的、FDAという拠点会社があることも強みだ。しかし、アクセス鉄道がない。空港駅はリニア工事問題で引き合いに出された不運もあった。新幹線ありきの計画を見直し、静岡県民のために最も良いルートを検討してもいいのでは。
リニア工事許可の駆け引きに使われた「不運」
19年5月20日、JR東海社長の「静岡工区未着工のままでは2027年度開業に影響する」という発言で、リニア中央新幹線工事の停滞が広く知られる事態となった。これが「静岡県のせいで」という世論になると危惧した静岡県知事が反発。現在まで混迷が続いている。そのなかで臆測された要因の一つが「新幹線静岡空港駅」だった。
リニア工事を認める代わりに、静岡県が再三要請している静岡空港駅を承諾させたいのではないか。静岡空港駅は川勝知事の発案だ。静岡空港は建設時から土地収用について地権者が反対していた。さらには離着陸の障害となる立木の伐採について前任知事が謝罪、その辞職を条件に伐採を許してもらったという経緯がある。その後任が川勝知事だ。
川勝知事にとって静岡空港活性化は重要な政策だ。ILS(計器着陸装置)のレベルアップを国に働きかけるなど、思い入れは強い。だからこそ「リニア着工条件に静岡空港駅あり」と臆測する報道もあった。川勝知事の本心は分からないけれども、19年後半の静岡県とJR東海に関する報道合戦において、川勝知事は地域振興の金銭的補償などにも触れていた。発言がその都度変わり、着工不許可の意図がぶれていた。しかし、川勝知事が「静岡空港新駅とは関係ない」と表明したことで、リニア中央新幹線静岡工区問題の焦点は、ようやく大井川の水問題と南アルプスの環境保全に集約された。
「リニア中央新幹線問題」と「静岡空港駅」を同じテーブルに載せてしまった。これが、どちらにも不幸な状況を作り出した。リニアの議論は混乱し停滞。静岡空港も、空港アクセス鉄道問題が先送りになってしまった。
静岡空港にとって、他の地方空港と同様に、鉄道やモノレールなど「軌道系アクセス手段」は必要なはずだ。新幹線がふさわしいかはともかくとして。
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