リニア駆け引きの駒にされた「静岡空港駅」は本当に必要か:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
富士山静岡空港を利用した。コンパクトで機能的、FDAという拠点会社があることも強みだ。しかし、アクセス鉄道がない。空港駅はリニア工事問題で引き合いに出された不運もあった。新幹線ありきの計画を見直し、静岡県民のために最も良いルートを検討してもいいのでは。
“新幹線ありき”ではなく、複数ルート検討を
静岡空港駅構想は首都圏第3空港が念頭にあり、首都圏のため、国のための構想だ。だからこそ「新幹線駅は県が負担するから、空港は国の費用で整備してほしい」という考えにも見受けられる。
つまり、静岡空港駅構想は「静岡県民のため」が第一の目的ではない。それでいいのか。ここを静岡県の皆さんに考えてもらいたい。
静岡県内の東海道新幹線駅は、熱海・三島・新富士・静岡・掛川・浜松だ。東海道新幹線に静岡空港駅ができると、これら6駅から静岡空港駅が直結する。これは確かに便利だ。しかし、これらの駅間にある清水、焼津、島田、袋井、磐田などの人々は、いったん新幹線駅で乗り換える必要がある。
これに対して、在来線の東海道本線に空港連絡急行を運行し、金谷駅から分岐して空港ターミナルビルと同じ階に駅を作る案はどうか。あるいは、金谷駅から空港ターミナルまでモノレールを敷設する。車窓から富士山も見えて、牧ノ原台地のお茶畑の眺めも楽しめる。ちょっとした遊覧飛行気分で楽しい路線になりそうだ。
東海道新幹線駅は静岡県内主要駅を網羅する良い案だと思う。しかし、新幹線ありきのアイデア優先で突っ走る状況には、いったんブレーキをかけてはどうか。静岡空港のため、静岡県民のため、複数の案を検討し、最も良いルートを探したほうがいい。
筆者の個人的趣味では、大井川鐵道の新金谷駅から分岐延伸する案をおススメしたい。空港ターミナルビルからSL列車に乗れる。ジェット機からSLに乗り換え。それは「きかんしゃトーマス号」かもしれない。こんな面白い演出は他の都市にはない。大井川鐵道案を今回の渾身のオチとして締めさせていただく。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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