「総務省は常識を逸脱」 渋谷区と総務省が対立の“住民票LINE交付”巡り、技術提供会社が国を提訴:助言か命令か
渋谷区と総務省が対立していた「住民票」問題。交付申請の際、LINEで本人確認する点を総務省は問題視して「事実上法令違反」とする通知を出していた。一方、総務省の対応は違法だとして技術提供会社が国を提訴した。
東京都渋谷区の「LINEによる住民票の写しの交付」に関するサービスを提供しているBot Express(東京・港)は9月10日、総務省の対応を巡って国を提訴した。渋谷区はLINEによる交付申請受付を4月1日に開始。その後、申請に伴う本人確認に電子署名などの手続きを踏まないことなどから、4月3日に総務省が地方自治体に対して事実上「法令違反」とする通知を発出した。なお同じ4月3日に渋谷区も見解を発表しており、法律や規則にのっとっていることや、運用開始前に総務省へ報告していることから問題ないという認識を示していた。
渋谷区のサービスは、Bot Expressのチャットボット技術などを基に住民票や税証明書の申請をLINE上で受け付け、窓口へ来所する必要なく交付・郵送するもの。申請者は申請から本人確認、手数料などの決済までをLINE上で完結できる。本人確認は写真や本人確認書類のアップロード、決済にはLINE Payを活用する。
総務省、合理性欠く?
Bot Expressによると、弁護士と協議した上で「総務省の回答内容は法令に照らして合理性を欠き、常識的な解釈を逸脱していること、当社サービスは合法であることをあらためて確認し、今回の提訴に至」ったという。総務省の通知は「技術的助言」という立ち位置だが、実質的に地方自治体へ「指示」するものであり違法だという見解を示している。
総務省が指摘する「なりすまし」のリスクに対して同社は、申請があった住民票の届け先が住民票記載の住所に限られることから「不正に取得することは不可能」とコメント。住民票の申請は郵送でもできるが、この際の本人確認が主に「本人確認書類のコピー同封」で行われる。渋谷区のLINEによる交付では、金融機関で口座開設する際に使う本人確認手段「eKYC」を実装していることから「現行の本人確認方式に比べて格段に強度の高い認証方式だ」としている。
電子署名が必要だという総務省の指摘に関しては、セキュリティ強度を高める有効な手段であると認めた上で、「一般的に利用されるオンラインサービスにおいて、電子署名を必要とするようなサービスを目にすることはほぼ皆無」「少なくとも現時点では、電子署名を伴う操作は極めて非日常的なもの」と反論。セキュリティの高度化とともに利便性とのバランスを考える必要があるとしている。一方、今後マイナンバーによる電子署名の利用環境が整った際には、速やかに実装すると表明した。
1人に対して10万円を支給する「特別定額給付金」の申請が始まった際には、申請窓口の混雑やオンライン申請の混乱が話題になった。渋谷区の交付方法は、新型コロナの感染を防ぐだけでなく、業務効率化の観点でもメリットがある。総務省は今後、どのような対応を見せるのだろうか。
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