コロナ対策? トヨタが非対面中古車ビジネス:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)
トヨタがオンラインの中古車販売サイトを立ち上げた。実績のある安い中古車を入り口に、徐々に高価格な中古車へ広げていくとトヨタはいうが、筆者は中古車だけのはずはないと思っている。新車だって対象にしない理由はないし、実質的に新車に近いは新古車などはすぐに対象に入ってくるはずだからだ。
トヨタの攻勢が凄まじい。このところ毎週のように新しい仕掛けが飛び出してくる。今回は中古車のオンライン販売だ。
中身の具体的な説明に入るより前に、この取り組みが何を生み出すのか? もちろんそれは筆者の見立てだが、そこから述べてみたい。
中古車ビジネスの構造
長らく、自動車メーカーの仕事は、新車を作って売って、それをメインテナンスすることだった。中古車の売買はかなり早い時点から事業の一角に組み入れられていたものの、それはやはり新車販売の副産物に過ぎなかった。下取りが入ってくるから売る。どこか、ことのついでという認識がついて回っていたと思う。
ひとつの例が中古車買い取りビジネスの台頭だ。メーカー系ディーラーに比べればブランド面でも資金力でも劣る買い取り専門店が急成長をしたのは、そこにビジネスの隙があったからだ。
昨今は多少事情が違ってきているが、筆者がホンダのディーラーで整備士をやっていた三十数年前は、メーカー系ディーラーの営業とはイコール新車営業だった。毎日の朝礼で売り上げを報告しては褒められたりしかられたりし、そこで成績が上げられないものが中古車担当に回される。
当時の中古車セールスは、ただ店頭に並べられたクルマを見に来た客の対応をするだけで、実質的には店頭の中古車をキレイに磨き上げて見栄えを良く保つのが仕事だった。
その中古車は新車担当の営業が下取ったものだ。中古車は相場ものなので、さまざまな要因で値段が上がったり下がったりする。新車営業は新車を売るのが仕事なので、中古車の査定には精通していないし、そもそもほとんど関心がない。査定価格一覧が載った本をめくって、傷や故障の有無を減点して査定するだけだ。そこには人気色の概念すら明確にはない。
などというビジネスを続けていただけだから、買い取り専門店がどんどんビジネスを伸ばしていった。彼らはオークションの動向を、株式トレーダーのようにチェックし、オークションで売れるクルマの価格を決める要素、例えばグレードやボディ色やオプション装備などがそれぞれどう影響し、そこに季節変動がどう関係し、詰まるところ今この瞬間いくらの値が付き、それでいくらの利幅が取れるかを徹底的にデータ化したのだ。
ディーラーのぬるい査定と買い取り店の厳しい査定、どちらが高くクルマを買い取れるだろうか? 多くのディーラーでは間違って損をしないように、高めの安全係数をかけて安く査定する。そこに精度の高い査定ができる買い取り専門店が現れれば、買い取り額に大差がつくという寸法だ。しかも情けないことに、新車を売るのが仕事の新車セールスは、ビジネスチャンスを買い取り専門店に取られても、気にすることは全くない。むしろ高い買取によって本業の新車を購入してもらう原資が増えグレードをステップアップしたりオプション装備が増えたりして大喜びだったりするのだ。しかしそれももう10年前の話である。ビジネスの構図がそれからどう変わったかは後述する。
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