イスラエルのユニコーン企業オーカム、障害者の“目”になるウェアラブル機器がもたらす未来:メッシ選手がアンバサダーに(4/4 ページ)
視覚障害を持つ人々ができる限り健常者と同じ自立した生活ができるよう、印刷物の文字を読み上げたり、服の色や紙幣の額を識別することができる小さなウェアラブルデバイス、オーカムマイアイ。衝突回避システムの先駆者であるモービルアイの創業者が立ち上げた、イスラエルのユニコーン企業オーカムが作り上げた。
企業価値10億ドルを超えるユニコーン企業
福祉の分野とビジネスとは一見離れているようにも感じるが、実は視覚障害者は世界で2億人以上いるとされるので、市場規模はとても大きい。オーカムには現在世界48カ国、約3万人以上のユーザがいるという。
AI技術で認識し、読み上げることのできる文字・言語は、英語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語、等々、日本語含め現在25言語ある。
日本ブラインドサッカー協会の松崎専務理事によれば、視覚障害の「障害」が意味するものは3種類ある。目が見えないという「機能の制約」、それにより文字が読めない・移動が難しいという「能力の制限」、そこから受ける「社会的不利益」だ。マイアイ2はこれらの「障害」を乗り越える手助けをするデバイスであり、その社会的意義はもちろんのこと、前述のような市場性もあることから、多くの投資家の注目を得て、5回のラウンドで累計129億ドルの資金を調達している。18年にはオーカムは企業価値10億ドル以上のユニコーン企業となった。モービルアイもユニコーン企業であり、アムノン・シャシュア教授は連続してユニコーン企業を生んだ、その意味でも天才なのである。
中東のシリコンバレーといわれるイスラエルの魅力は、このような優れた企業、起業家に出会えることにある。モービルアイの場合も、デバイスの機能を発揮させるために道路環境の情報データを地道に積み上げた巨大なデータを持っていることがその力の源泉になっている。
マイアイの場合も多言語に対応するなど、AIがフルに認識機能を発揮できるようにデータを積み上げている。マイアイ2は、今後文字や顔を認識・読み上げるだけではなく、目の不自由な人の周りの環境を認識し、例えば「この先には階段があります」というように周囲がどうなっているかをリアルタイムで教えてくれるような支援デバイスを目指すそうだ。コンピュータサイエンスを駆使し、デジタルデータを最大限活用する、これがイスラエルの強みである。
DX(デジタルトランスフォーメーション)というようなバズワードが生まれる前から「データ」の重要性を認識し、あらゆる分野でデータを生かしたソリューションを生み出している彼らに、我々日本人は学ぶことは多い。
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