イスラエルのユニコーン企業オーカム、障害者の“目”になるウェアラブル機器がもたらす未来:メッシ選手がアンバサダーに(3/4 ページ)
視覚障害を持つ人々ができる限り健常者と同じ自立した生活ができるよう、印刷物の文字を読み上げたり、服の色や紙幣の額を識別することができる小さなウェアラブルデバイス、オーカムマイアイ。衝突回避システムの先駆者であるモービルアイの創業者が立ち上げた、イスラエルのユニコーン企業オーカムが作り上げた。
鍵は画像処理技術
自動車の運転支援システム技術を提供するモービルアイと、視覚障害者を支援するデバイスを提供するオーカムとでは、一見全く違った事業分野と感じるが、両者に共通するのは優れた「画像処理技術」である。
モービルアイでは、EyeQというチップにより、カメラが捉えた画像が道路を横断する人間なのか、自転車なのか、対向車線でこちらに来る自動車なのか、などを正確に認識することができる。その技術を応用して、目の不自由な人の目の代わりをすることを狙ったのが、オーカムマイアイである。
眼鏡のつるに磁石で付けることができるほど小さくて軽いデバイスであるにもかかわらず、この中に小型カメラ、バッテリーと画像認識用チップが組み込まれている。利用者が指さした新聞の場所の文字を認識して読み上げたり、指さした洋服の色、向き合っている人の名前などを教えてくれたりする。その機能を理解するにはこのYouTubeビデオが分かりやすい。
筆者はオーカムマイアイを開発したR&Dの責任者、ヨナタン・ウェクスラー博士に取材をしたことがある。ウェクスラー博士は、もともとヘブライ大学でシャシュア教授の指導の元にコンピュータビジョンの研究をしていた。その後、PhD取得のために米国のメリーランド大学へ行ったあとも教授とはつながりを維持しており、教授からオーカムテクノロジーズ創業時に誘いがあったという。
このように、イスラエルでは人のつながりを大切にし、そこからキャリアアップしていくことが一般的である。人間の認知機能を研究していたウェクスラー博士にとっては、正に研究してきたことを生かす最適なチャンスを獲得したことになる。コンピュータビジョンという分野そのものは特殊な研究分野ではなく、日本を含む多くの国の企業・大学で研究が進められている。しかし、モービルアイにせよ、オーカムにせよ、その技術が具体的に役に立つ適切な応用先を見つける選球眼を持ち、それをソリューションとして具体化する技術開発力を持つのが優れたイスラエル企業の特徴といえる。
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