イスラエルのユニコーン企業オーカム、障害者の“目”になるウェアラブル機器がもたらす未来:メッシ選手がアンバサダーに(2/4 ページ)
視覚障害を持つ人々ができる限り健常者と同じ自立した生活ができるよう、印刷物の文字を読み上げたり、服の色や紙幣の額を識別することができる小さなウェアラブルデバイス、オーカムマイアイ。衝突回避システムの先駆者であるモービルアイの創業者が立ち上げた、イスラエルのユニコーン企業オーカムが作り上げた。
あのモービルアイ創業者が立ち上げたオーカム・テクノロジーズ
そもそも、このプロジェクトを推進するオーカムとはどんな企業か? オーカムは、衝突回避システムの先駆者であるモービルアイの共同創業者、アムノン・シャシュア教授とジブ・アビラム氏よって2010年9月に創業されたベンチャーである。
2人は独自のアルゴリズムによる自動車の衝突回避システムを開発し、1999年にモービルアイを創業した。
人間の目のように2眼のカメラで前方障害物との距離を測るのであれば一般的であり、スバルの運転支援システム「アイサイト」はこの方式である。一方、モービルアイは単眼カメラで前方障害物とその距離を計測できるため、安価に作れる。世界中の自動車メーカーに採用されているだけではなく、既存の古い自動車にも後付けできるのが大きな特徴だ。外部情報の認識・計算は、独自の画像処理アルゴリズムに基づいており、このアルゴリズムを発明したのがヘブライ大学のコンピュータ・サイエンスの教授であるアムノン・シャシュア氏なのだ。
単眼カメラによる画像認識の精度を上げるために、モービルアイは世界の自動車メーカーと協力し、2000年から昼夜、晴天、雨天などのあらゆる状況の道路データを地道に集めており、今でもその収集・解析は続いている。
その独自技術と地道に集めた巨大なデータが価値であることは間違いないが、モービルアイの名前を最も有名にしたのは、17年にインテルに153億ドル(約1.7兆円)という金額で買収されたことであろう。この巨額の買収は、数々のスタートアップがサクセスストーリーを作っているイスラエルでも、記録的な数字となった。
153億ドルという評価の裏には、優れた画像処理技術に加えて、Road Experience Management(REM)という自動運転に向けた地図情報生成技術にあると考えられる。モービルアイのカメラを搭載した車は、そのEyeQというチップにより道路周辺の画像データを処理し、クラウドに集めて地図を作製している。
その地図情報データはモービルアイ・システム搭載車が勝手に集めてくれるのだ。自動運転を実現するためにわざわざ地図を作製するのではなく、衝突回避システムを搭載した車が走ることで現在の道路・環境情報が収集され、それがクラウド上で地図データとなり、その地図データを参照しながら自動運転が可能になる。まさに自動運転の世界を実現するためのエコシステムを構築しているのである。
この優れたシステムを作り上げた天才技術者が次に創業したのが、視覚障害者を支援するウェアラブルデバイス、マイアイを開発したオーカムなのである。
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