日本の経理、効率化のカギはBPO 「多すぎる勘定項目」「紙の請求書」を乗り越えるには:リモートワーク推進にも有効(1/4 ページ)
リモートワークが難しいとされる経理業務。経理業務に関するソリューションを提供しているファーストアカウンティングの森社長は、課題として「多すぎる勘定項目」と「紙の請求書」を挙げる。リモートワークやBPOを進めるにはどうすればいいのだろうか。
2020年6月、経理業務に特化するAIソリューションを開発・提供しているファーストアカウンティング(東京・港)が、日本CFO協会と協力し「ポスト・コロナの経理部門の変革に向けた現状と課題」というテーマの調査を行った。調査結果では、新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言が出たときでも経理部門の9割は出社していたことや、ニュースにもなったハンコを押す作業よりも苦労した業務などが明らかになった。
そこで今回は、このアンケートから得られた考察や米国と日本の経理業務の違い、今後普及することが確実なリモートワークにおける経理業務についてなどを、ファーストアカウンティングの森啓太郎社長に聞いた。
決算期と緊急事態宣言がかぶって……
ファーストアカウンティングの顧客は経理部門が多く、緊急事態宣言を受けてリモートワークにするか出社させるか悩んでいた顧客も多かったそうだ。そこで、6月に日本CFO協会と協力して調査を実施した。顧客の役に立つような統計情報を得るのが目的で、ファーストアカウンティングが質問項目を作った。
調査は大手の企業を中心に行ったが、意外だったのが緊急事態宣言発令後の出社についてだ。大手企業はこぞってリモートワークを推進しているイメージもあるが、こと経理部門に限っては事情が違っていた。
上場企業の多くは3月決算になっており、ちょうど緊急事態宣言中に決算作業がぶつかる。しかし、決算を延期したのは27%だけで、残りの企業は延期しなかった。過去にチャレンジしたことがないのに、リモートワークで決算を行えるわけがない。案の定、決算作業で「出社なし」だったのはわずか9%。程度の差はあれ、決算がある企業の9割で、経理部門が出社していたのだ。
そして、リモートワークにおける業務生産性の変化についてもユニークな結果が出た。リモートワークを推進する団体などのアンケートでは、ほとんどで生産性が向上したという回答の方が多いのだが、今回は逆の結果になった。「向上/著しく向上」が25%、「悪化/著しく悪化」が30%となったのだ。
「生産性が向上したのは、東京ですと1〜2時間の通勤時間がなくなったり、1人の環境なので集中力が上がったというケースです。無駄話がなくなったとか、上司が隣にいないので割り込みの仕事がなかったという意見もあります。一方、オフィスにいることで自然と入ってくる情報がなくなり、あえて共有しないと分からないことが増えたのが背景にあります。自宅ではディスプレイや通信回線といったハードウェア環境が悪いこともあるでしょう」と森氏は分析している。
「経理のデジタル化」の目的も、従来と異なる傾向があった。従来、経理をデジタル化する最大の理由は採用難だった。経理スタッフは希少人材で、求人倍率を見ても、人手不足が明らかだったそうだ。しかし、今回のアンケートでは「業務効率化・コスト削減」が断トツで、2番目が「テレワークへの対応」だった。一方で採用難は、6番目にまで優先順位が落ちていた。コロナ禍で、いかに急激にリモートワークが普及したのかが伺える情報だ。
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