アフターコロナで問われる「雇用と外注の境界」、海外雇用の時代到来か:専門家のイロメガネ(2/6 ページ)
コロナ禍を受けた緊急事態宣言以降、働き方は大きく変化変した。リモートワークの急拡大による通勤不要を好意的に捉えた従業員も多いだろう。だが「働き方の変化」は、経営者側から見れば「雇い方の変化」となる。アフターコロナで雇用はどう変わるのか?
リモートワークでは「雇用」が都市を脱出する
総務省が8月27日に公表した、2020年7月分の「人口移動報告(外国人を含む)」では、7月に東京・神奈川・千葉・埼玉から転出した人が転入した人を上回った、つまり東京圏から人口が地方へ流出したと話題となっている。
「通勤が不要になったことで、都市部に住んでいた人が物価の安い地方へ脱出した結果だが、これが進めば都市部の不動産価格が暴落することになる」
今回の調査結果で、まことしやかに語られていた「都市部の不動産価格暴落」が数字で裏付けられたようにも見えるが、実際には転出超過はわずか1459人にすぎず、コロナが収まれば元に戻る程度だ。数が少ないことからも、こういった動きは一部にとどまると考えられる。というのも、現在の職場がリモートワーク可能でも、転職後も同じように働けるとは限らず、また定年退職の年齢まで今の会社が無事に生き残っていると信じているような人もいないからだ。
つまり、今後都市を脱出するのは、雇用される側ではなく雇用する側だ。
国内の給与水準は都道府県ごとに大きく異なり、都市部と比べて賃金が何割も低い地域は多数ある。そうしたなか、リモートワークが可能な都市部の会社としては、同じ賃金なら地方の方が優秀な人材を確保できるし、同じ能力の人材なら地方の方が安く確保できると考えられる。そうなると、給与水準の高い都市部でわざわざ採用する必要がなくなってしまう。
出勤をゼロにできなくても、例えば月に1度で良いのなら、東京の会社が沖縄や北海道に住んでいる人を雇うことも問題はない。
さまざまなアシスタント業務をオンラインで行う「キャスター」では、出社義務のないフルリモートでの働き方が14年から定着しており、その数は700人に上る。そしてスタッフは全国45の都道府県に散らばっており、東京以外の在住者は8割を超えるという。
このような話題は国内にとどまらない。賃金水準が圧倒的に低い地域で人材を雇用できるのなら、手間をかけても海外の人材を採用するメリットは大きい。製造業が人件費の安いアジアへ工場を移転したように、同じことがオフィスワーカーでも発生していくだろう。
そしてコロナ禍を経て「在宅勤務でも仕事は案外回る」と実感した経営者のなかには、こんな違和感を覚えた人も居るだろう。
在宅勤務で問題が起きないなら、雇用と外注の違いって一体何だ?
関連記事
- 「としまえん売却」と「GAFAMの東証一部超え」から見えるコロナ後の世界
「としまえん」の売却が今年2月に伝えられた。また1月には時価総額において「GAFAM」が東証一部全体を超えた。さらに、これら2つのニュースが示す新時代への移行は、コロナで一気に加速している。ここでは、リアルな土地から「新大陸の土地」へのビジネス主戦場の移行、コロナによる移行の加速、またコロナ後の世界を見ていきたい。 - コロナで変わる、桃鉄・シムシティ的な都市開発
TVゲーム「桃太郎電鉄」や「シムシティ」は、戦後日本の都市開発を単純化したものだと言えるだろう。当時の日本では、阪急や西武といった私鉄各社が都市開発をリードしていた。コロナにより働き方や購買行動が変化することで、都市開発、不動産開発がどのように変化するのか。今後のビジネスの変化についても考えてみたい。 - ゴーン騒動に200億円も支出した日産の判断は正しいのか?(後編)
ゴーン氏が逮捕され、西川廣人氏が不正な報酬授受で退任した後も、極めて疑問の残る支出が発生している。「ゴーン騒動」に日産が払ったコストだ。報道によれば、一連のトラブルに対応する費用は2億ドルにも上るという。 - 報酬5億円でゴーンの暴走を放置した西川前社長の責任(中編)
メディアでは一斉にゴーン批判の嵐が巻き起こったが、仮に暴走していたのであればそれをとめる役目を負うのは役員であり、その最高責任者は日産の代表取締役社長兼CEOの西川氏にほかならない。ゴーン氏が犯罪を行って逮捕・起訴されたのであれば、西川氏もセットで逮捕されるべきで、西川氏が逮捕されないのであればゴーン氏の逮捕もあり得ないはずだ。 - ゴーン国外逃亡で考える、日産前社長の西川氏が逮捕されない理由と検察の劣化(前編)
ゴーン氏の会見後も毎日のように新しい動きが報じられたが、そもそもの発端を理解している人は少ないだろう。世間では「給料をごまかして逮捕された挙句に国外逃亡したとんでもないヤツ」と認識されていると思うが、実際はそのような単純な話ではない。なぜゴーン氏が国外逃亡を選んだのか、なぜ西川氏と検察もまた問題があると断言できるのか、複雑に絡んだ事件を整理してみたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.