アフターコロナで問われる「雇用と外注の境界」、海外雇用の時代到来か:専門家のイロメガネ(3/6 ページ)
コロナ禍を受けた緊急事態宣言以降、働き方は大きく変化変した。リモートワークの急拡大による通勤不要を好意的に捉えた従業員も多いだろう。だが「働き方の変化」は、経営者側から見れば「雇い方の変化」となる。アフターコロナで雇用はどう変わるのか?
リモートワークが経営者の意識を変える
8月に、元ホームレスの社長が会社を上場させたと話題になったサンアスタリスクは、ベンチャー企業のIT支援を行う会社だが、そこで活躍しているのはベトナムに抱えている1000人以上のエンジニアだという。
各社の国内のコールセンターが、北海道や沖縄など人件費の安い地域、場合によっては中国にあることはすでに知られている。筆者もつい先日、NTTのコールセンターへ問い合わせをしたところ、オペレーターに若干の北海道訛りがあると感じたが、話を終えたオペレーターは、やはり北海道のコールセンターであることと名前を告げて電話を切った。これと同様に米国のコールセンターはインドに多数あるといった話を知っている人も多いだろう。
ソフトウェアの開発やコールセンター業務など、企業から切り離して運用しやすい部門は外部委託され、地域も問わない。そしてコーポレート部門と呼ばれる人事・経理・総務などもすでに外注されているケースがある。
そこまで考える企業なんてごく一部だから、話が極端すぎる、と笑う人がいるかもしれないが、かつてNHKスペシャルで「人事も経理も中国へ」と題して、国内のオフィスワークが海外へアウトソーシングされるという話が放送されたのは10年以上も前の07年だ。
「コロナは変化を加速させた」といった表現があちこちで使われているが、外注できない仕事はすでになく、外注先も国内に留まらない。
先ほど紹介したNHKスペシャルでは、インフォデリバーという企業の中国・大連センターが、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)業務を受託した企業が、業種別に紹介されている。
全116社中で最も多いのが、リモートワークが適している「IT企業(ITサービス、情報サービス企業)」で33社あった。続いて「流通/運輸・卸売/小売/通販会社」が26社、「製造業・通信会社」が18社となっている。流通、小売、製造業は、いずれも利幅が薄いがゆえにコストダウンを強く求められるものの、あらゆる工程に多数の企業が関与しているため、外注に抵抗がない業種といえる。当時番組で取り上げられた企業にも、通販大手のニッセンがある。
一方、受託の実績が最も少ないのは「銀行(メガバンク)・信託銀行」の2業種だが、これらはセキュリティ的な問題で外注、特に海外には仕事を出しにくいと考えられる。
同社の導入実績を見ると、ある程度の傾向が見て取れるが、今後はこういった傾向にも間違いなく変化が生まれるだろう。
関連記事
- 「としまえん売却」と「GAFAMの東証一部超え」から見えるコロナ後の世界
「としまえん」の売却が今年2月に伝えられた。また1月には時価総額において「GAFAM」が東証一部全体を超えた。さらに、これら2つのニュースが示す新時代への移行は、コロナで一気に加速している。ここでは、リアルな土地から「新大陸の土地」へのビジネス主戦場の移行、コロナによる移行の加速、またコロナ後の世界を見ていきたい。 - コロナで変わる、桃鉄・シムシティ的な都市開発
TVゲーム「桃太郎電鉄」や「シムシティ」は、戦後日本の都市開発を単純化したものだと言えるだろう。当時の日本では、阪急や西武といった私鉄各社が都市開発をリードしていた。コロナにより働き方や購買行動が変化することで、都市開発、不動産開発がどのように変化するのか。今後のビジネスの変化についても考えてみたい。 - ゴーン騒動に200億円も支出した日産の判断は正しいのか?(後編)
ゴーン氏が逮捕され、西川廣人氏が不正な報酬授受で退任した後も、極めて疑問の残る支出が発生している。「ゴーン騒動」に日産が払ったコストだ。報道によれば、一連のトラブルに対応する費用は2億ドルにも上るという。 - 報酬5億円でゴーンの暴走を放置した西川前社長の責任(中編)
メディアでは一斉にゴーン批判の嵐が巻き起こったが、仮に暴走していたのであればそれをとめる役目を負うのは役員であり、その最高責任者は日産の代表取締役社長兼CEOの西川氏にほかならない。ゴーン氏が犯罪を行って逮捕・起訴されたのであれば、西川氏もセットで逮捕されるべきで、西川氏が逮捕されないのであればゴーン氏の逮捕もあり得ないはずだ。 - ゴーン国外逃亡で考える、日産前社長の西川氏が逮捕されない理由と検察の劣化(前編)
ゴーン氏の会見後も毎日のように新しい動きが報じられたが、そもそもの発端を理解している人は少ないだろう。世間では「給料をごまかして逮捕された挙句に国外逃亡したとんでもないヤツ」と認識されていると思うが、実際はそのような単純な話ではない。なぜゴーン氏が国外逃亡を選んだのか、なぜ西川氏と検察もまた問題があると断言できるのか、複雑に絡んだ事件を整理してみたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.