RAV4 PHVとHonda e予約打ち切り どうなるバッテリー供給:池田直渡「週刊モータージャーナル」(7/7 ページ)
トヨタRAV4 PHVと、ホンダのHonda eの予約注文が中止になった。両車とも想定以上に売れたことが理由なのだが、トヨタははっきりとバッテリーの供給が間に合わないと説明している。ホンダは予定生産台数の国内配分枠を売り切ったからというのが正式説明だが、まあおそらくは、その予定生産量を決めているのはバッテリーの供給量だと踏んで間違いはあるまい。
バッテリー需給がひっぱくしている現状では、プレミアムEVの代わりにハイブリッドなら80台作れる。仮にハイブリッドの温室効果ガス低減効果を30%と低めに見積もったとしても2400%となり、それはEV24台分の低減効果になる。ヤリスのハイブリッドあたりを基準にしたら多分50%とかになるのではないか。
つまりバッテリーがボトルネックとなっている現状では、環境を少しでも改善したいとすればバッテリー搭載量に対する温室効果ガス削減効果の比率で見るのが最も合理的だ。そういう意味ではやはり環境への貢献はハイブリッドが最も高い。200万円以下の選択肢もあるし、300万円以下でなら選り取り見取りだ。EVやプラグインハイブリッドと比べ、イニシャルコストが安く普及しやすい割に効果が高い。
プラグインハイブリッドはまだ価格的にこなれておらず、EVよりいくぶん安いくらいの価格なので、現状、効果との見合いではEVの勝ちといえるかもしれない。ただし、バッテリーの搭載量では大差があるし、価格面でも今後のポテンシャルの高さはかなり期待できる。
とにかく環境対策にはEVだけが唯一解だと考えると判断を間違う。何も例外なく1つのシステムに収れんしなくてはいけない理由はない。朝食がパンでもご飯でも好きな方を選べることに異議を申し立て、どちらかに統一せよと言い出したら変に思うだろう。それと同じく、使う地域や使い方や経済力によって、いろいろなシステムにはそれぞれ長所短所や使い勝手の好みがある。
長期で見れば、バッテリー供給が変われば、多くの人の選択肢は自然と変わっていくだろうし、その先はオールEVの社会なのだろうが、目の前にあるバッテリー供給問題に目をふさいで「EVが正義」と声高に叫んでも何も変わらない。いま可能なことにベストを尽くして、温室効果ガスの削減を推し進めることの方がずっと大事なのだ。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
関連記事
- EVへの誤解が拡散するのはなぜか?
EVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取る、という論調のニュースをよく見かけるようになった。ちょっと待ってほしい。価格が高いEVはそう簡単に大量に売れるものではないし、環境規制対応をEVだけでまかなうのも不可能だ。「守旧派のHVと革新派のEV」という単純な構図で見るのは、そろそろ止めたほうがいい。 - RAV4 PHV 現時点の最適解なれど
トヨタはRAV4 PHVを次世代システムとして市場投入した。世間のうわさは知らないが、これは早目対応の部類だと思う。理由は簡単。500万円のクルマはそうたくさん売れないからだ。売れ行きの主流がHVからPHVへ移行するには、PHVが250万円程度で売れるようにならなくては無理だ。たった18.1kWhのリチウムイオンバッテリーでも、こんな価格になってしまうのだ。まあそこにはトヨタ一流の見切りもあってのことだが。 - 暴走が止まらないヨーロッパ
英政府は、ガソリン車、ディーゼル車の新車販売を、ハイブリッド(HV)とプラグインハイブリッド(PHEV)も含め、2035年に禁止すると発表した。欧州の主要国はすでに2040年前後を目処に、内燃機関の新車販売を禁止する方向を打ち出している。地球環境を本当に心配し、より素早くCO2削減を進めようとするならば、理想主義に引きずられて「いかなる場合もゼロエミッション」ではなく、HVなども含めて普及させる方が重要ではないか。 - ようやくHVの再評価を決めた中国
中国での環境規制に見直しが入る。EV/FCVへの転換をやれる限り実行してみた結果として、見込みが甘かったことが分かった。そこでもう一度CO2を効率的に削減できる方法を見直した結果、当面のブリッジとしてHVを再評価する動きになった。今後10年はHVが主流の時代が続くだろう。 - 日本のEVの未来を考える(前編)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.