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新燃費規程 WLTCがドライバビリティを左右する池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

ここ最近よく聞かれるのが、「最近の新型車ってどうしてアイドルストップ機構が付いてないの?」という質問だ。全部が全部装備しなくなったわけではないが、一時のように当たり前に装備している状況でなくなったのは確かだ。それに対してはこう答えている。「燃費の基準になる測定方法が変わったから」。

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 こうやって試験課題が変わったことが、パワートレインのシステム構成の見直しにつながった。多少条件が違うとはいえ、欧州のNEDCに対しても加速要求が高まっているのは同様で、端的にいえば基準が変わったことで、ダウンサイジングターボのメリットが激減したのだ。

 本来ダウンサイジングターボは、小排気量化と気筒削減でエンジン内部の摩擦抵抗を減らしつつ、過給によって低回転域のトルクを増大させることで、擬似的に、多気筒・大排気量エンジンを低負荷運転させた状態をエミュレーションし、いいとこ取りを考えるシステムだ。

 軸となるのは、最大トルクの発生回転数を下げ、そこを多用することによる低〜中負荷・低回転領域の燃費の向上だ。仕事量はトルクと回転数の積なので、トルクが同じなら回した方が仕事量は増える。けれどそれでは摩擦損失が尋常ではなくなり、燃費が落ちてしまうのだ。

 だから、過給で低速域のトルクを増やして、回転に頼らずに仕事量を増やすのだ。「積」だから必要とするトータルに届くのであれば、どちらが増えてもいい。回転を上げるのが都合が悪ければ、トルクを増やすしかないともいえるし、裏返していえば、トルクを上げる手があるともいえる。規制のモード運転で必要とされる仕事量をあらかじめ想定し、回転を上げずにそれがまかなえるところまで低速トルクを厚くする。

 もちろん想定を上回る大きな仕事量が必要になれば回さないと無理だ。その領域ではもう燃費に目をつぶってパワーを絞り出す。ダウンサイジングターボは、そこの境目を超えると一気に燃費が落ちる。

 そのためにダウンサイジングターボは、多くの場合、多段変速機と組み合わせて、とにかくエンジン回転を低い回転域に釘付けにして走ることを狙う。それが旧基準でのCO2削減に対するダウンサイジングターボのアプローチである。ところが、WLTCでは加速で求められる仕事量が圧倒的に増え、「どちらか片方を増やした積」では足りない状況を迎えた。トルクを増やすだけでなく回さないと対応できない。それではシステム設計の前提が壊れてしまうのだ。

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