新燃費規程 WLTCがドライバビリティを左右する:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
ここ最近よく聞かれるのが、「最近の新型車ってどうしてアイドルストップ機構が付いてないの?」という質問だ。全部が全部装備しなくなったわけではないが、一時のように当たり前に装備している状況でなくなったのは確かだ。それに対してはこう答えている。「燃費の基準になる測定方法が変わったから」。
規制とドライバビリティの関連性
視点を切り替えて、ドライバビリティ面での機械特性をみると、低速トルクが太いこの種のダウンサイジングターボは街乗り領域で扱いやすさがあり、多くのユーザーに新しいドライビング体験をもたらした。規制対応とドライバビリティ両面でメリットがあったからこそ、ダウンサイジングターボは一気に普及した。
しかしどのシステムにも欠点はある。ターボという仕組みは、エンジン停止、あるいはアイドリングなどで、タービンが止まってしまうと、そこからのピックアップにはどうしても微細なタイムラグが発生し、その結果、もっともトルクがほしい速度ゼロからのスタートで扱いにくいトルクの急変ポイントを迎える。
悪いことに、ダウンサイジングターボは、連続的に排気ガスが出ている状態では、とても活気があるエンジンだ。1800回転も回っていれば、ほとんど最大トルクに近い力を発生させる。ところがそのすぐ隣り合わせの、停止からの瞬間的トルクは対照的に不足する。要するにちょっとでも動いていれば太いトルク、しかし停止してしまうとタービンの立ち上がりラグでトルク不足になる。過給開始前後のトルク変動をどうしても完全解決することができなかった。
この症状は、気を付けてみていれば、停止状態から少しだけアクセルを踏んで発進しようとした時に分かる。穏やかなタイヤの転がり出しを期待して、丁寧にアクセルを踏んでいるにもかかわらず、思った以上にクルマが飛び出す感じから見て取れる。そんな加速をしても平気なシチュエーションであれば「おお、このクルマ出足が良いな」とポジティブに評価するかもしれないが、障害物に対して少しだけ距離を詰めたい時などは「なんだ!? 飛び出して怖いな」になる。この時ドライバーの頭の中では、以下のようなルーティンが起きている。
ちょっとだけトルクを出したい→わずかにアクセルを踏んでも反応しない(ターボラグが出ている)→反応が悪いことを自身でフィードバックしてアクセルを探りながら踏み足す→ターボが働き始めて、予想より強い加速になる→不安を感じる
要するに「ちょっとだけ」ができないのだ。いきなりドバッと出る醤油(しょうゆ)刺しとか、いきなり音量が大きくなるオーディオのボリュームとかと同じで、操作するのが嫌になるようなストレスがある。経験的にいえば、2リッター以上の排気量であれば、速度ゼロからのタービン加速に求められる排気ガス量がそれなりにまかなえて、問題は薄まる。しかしそれ以下だとどうしてもラグによる扱いにくさを作り出してしまう。加えていえば、低速重視の小径タービンの容量は、高速域では早目に飽和してしまい、トップエンドでは過給が頭打ちになって伸びない。
念のために申し添えておくが、パワートレインのフィールはエンジンだけでなくトランスミッションも含めた話なので、ターボラグにしても比較的高回転側の加速にしても変速機が上手く誤魔化してして、こういうネガをカバーしている例外も存在する。ここで説明しているのは、あくまでも仕組みの原則論の話である。
さて、そんなわけでダウンサイジングターボは、日本ではストップ&ゴーに、欧州では高速域での伸びに課題を残し、日常域の高トルクという美点を持ちながら、悩み多いシステムだったのである。
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