MX-30にだまされるな:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)
マツダの電動化の嚆矢(こうし)となるMX-30をどう見るか? このクルマのキャラクターをつかもうと思うのであれば、変化球モデルだと思わない、スポーツ系モデルだと思わない、ついでにフリースタイルドアのことも電動化のことも全部忘れる。そうやって全部の先入観を排除して、普通のCセグのSUVだと思って乗ってみてほしい。その素直で真面目な出来にびっくりするだろう。
ブレーキフィールが変わった
乗り心地方面の話をすると、トーションビームだからという人が出てくるだろうが、サスペンションの領域は良質。細かいことをいえば、荒れた路面でザラゴロしたタイヤの踏面の硬さを少し感じる。もう少し減衰の良いタイヤだったらまだ向上する余地はあると思う。
もう一点、これは大きな違いだが、ブレーキのフィールが変わった。Mazda3とCX-30では、マツダは意を決して、踏力制御型のブレーキを採用した。普通はペダルストロークでブレーキの効きを制御するのだが、ブレーキパッドが当たったところでストロークを止めて、そこからは踏み込みの力加減で制御するようにした。例えるならレンガを踏んだような踏み心地で、それは従来のストローク型制御に対して、踏力型制御派が理想と掲げてきたインターフェイスだ。
筆者もこの一派であった。過去形で書くのはMX-30のブレーキに新しい解を見たからだ。MX-30でも基本が踏力制御型であることには変わりはない。しかしパッドが当たったところから一切ストロークさせないレンガのようなものではなく、テニスボールを踏んでいるように強い反力を感じながら、力の込め具合を足裏で感じられるものになっている。
レンガタッチは、今までのインターフェースに慣れている人には違和感があり、「効かないブレーキ」だと思われることは容易に想像できる。ペダルが動かなくなったらそこが踏み込み量の終着点だと思うだろうから、まさかそこから圧を上げていくものだと思わないのだろう。
今回のテニスボールタッチは、踏力型とストローク型のうまい折衷点で、実際に極めて操作しやすかった。これは大きな美点である。
ということで走りと快適性という、乗用車の最も大事なところで極めてバランスが良く、感心しきり。これはマツダの最量販車種になるべきではないかと思ったくらいである。
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