従業員に“報いる”経営で31期連続増収増益 埼玉の「ヤオコー」がコロナ禍でも成長する理由:独自の経営哲学(3/5 ページ)
郊外の食品スーパーはコロナ禍でも順調。その中でも埼玉が地盤のヤオコーは31期連続増収増益で、コロナ禍でも絶好調。強さの秘密は従業員に“報いる”経営スタイルにあった。
増収増益を支えるポジショニング戦略
ヤオコーは21年3月期決算も2.7%の増収、経常利益も1.4%増の199億円を見込んでいます。経常利益率はこの10年間、4%台を割ったことがありません。食品スーパーで経常利益率2%を超えるのは数社しかないので、同社の収益性の高さが目立ちます。
もともと低い粗利で経営をしている食品スーパー業界で、同社はなぜ業界の2倍の利益率を達成できているのでしょうか。そのカギは同社の「小売業の最大の財産は人材」(同社川野幸夫会長)と言い切る、人を大切にする経営にあります。「個店経営」や「全員参加の商売」という言葉で語られる同社の経営は、人の可能性を引き出し、店に主体性を持たせて、結果的に高い効率を上げる店舗づくりにつながっているのです。
ちなみに、同社の正社員1人当たりの売り上げは1億3000万円以上あり、パートナー(パートタイマーやアルバイト社員を同社ではパートナー社員と呼ぶ)も含めた全従業員1人当たりの売り上げでも3000万円を超えています。それでいて労働分配率は47〜48%を維持していますので、低賃金で長時間働くことで利益を出しているわけではないことが分かります。どちらかといえば、一人一人のレベルを向上させ、商品力と提案力に磨きをかけている企業なのです。
なぜ、このような考え方をするようになったのでしょうか。それは、競争の激しい食品スーパー業界の中で生き残るために立案した第2次中期経営計画(1997年4月〜2000年3月)にありました。
同社では94年4月に第1次中期経営計画を発表して以降、3年ごとに見直しをしています(現在は第9次)。
第1次中計で「ヤオコーは何屋になるのか」を定義し、第2次では「ライフスタイルアソートメント型スーパーマーケット」という概念を打ち出しました。
食品スーパーというのは大ざっぱに分類すると、価格訴求型か、価値訴求型かのいずれかに分かれます。
コモディティ商品とは、大衆品や汎用品といったようにどこでも買える商品のことです。ライフスタイル商品とは、生活充実品や嗜好品といわれています。生活者のライフスタイルに合わせて購入する、いわば生活を楽しむための商品です。コモディティ重視型は、どこでも買えるようなものを扱うので、できるだけ安く販売する「価格訴求型」となります。
一方、ライフスタイル提案型は、食材のこだわりやオープンキッチンなどの豊かな食文化を提案をする「価値訴求型」といえます。大資本の企業であれば価格訴求でも勝負できますが、ローカルのスーパーではそれは難しいですし、今後の世の中の変化を考えると価値訴求でいくのが正しいと考えたのです。そこで同社は「ライフスタイル商品(生鮮・デリカ部門など)でお客さまに来ていただけるスーパーマーケットを目指す」と第2次中計で明示したのです。これが同社の方向性を明確にしただけでなく、今の成長につながる原点になったといっても過言ではないでしょう。
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