【独自】ワタミ「ブラック企業に逆戻り」騒動 内部取材で明らかになった、衝撃のウラ話を暴露する:告発された「パワハラ」の実態(1/10 ページ)
「ワタミの宅食」で起こった残業代未払い問題。それだけでなく資料改ざんやパワハラなど、「やっぱりワタミはまだブラックだったのか?」と思わせるような実情が告発された。本当にワタミはブラック企業へ回帰したのか。内部取材を敢行すると、思わぬ事情が見えてきた。
居酒屋大手「ワタミ」に対して、高崎労働基準監督署から残業代未払いに関する是正勧告が出されたとの報道があった。本件を報道したYahoo!ニュースの記事によると、被害者であるAさんは「ワタミの宅食」で正社員として勤務していたが、長時間労働による精神疾患のため現在休職中という。また同社においては長時間残業が常態化しており、6〜7月には過労死ラインの2倍となる月175時間の残業があったとして、「長時間労働で労働者を使い捨てにする『ブラック企業』ぶりを改めて露呈」と厳しく批判している。
筆者は、ワタミがブラック批判にさらされていた2013年前後、ワタミを批判する側の筆頭のような立場にいた。しかし、同社のその後の変革と改善を目の当たりにし、現在はむしろ同社のホワイト化を伝道する立場へと“転向”している者だ。これまでの環境改善の経緯はリアルタイムでたびたび報道していたこともあり、今回の労災事案を機に「お前の書いた『ワタミホワイト化』の記事はまるでウソではないか」といった批判も頂戴している。
そこで筆者は、これまでの長年にわたる同社取材をへて構築したネットワークを基に、本件の真相を探るべく調査と、関連各所への取材をおこなった。本稿はその結果をまとめたものである。筆者は何もワタミを全面的に擁護しようとしているわけではない。利害関係が一致しない者同士では言い分が真っ向から対立することはあるし、第三者委員会の調査も、ワタミとユニオン間での団体交渉も始まったばかりで、これから段階的に明らかになっていくことも多々あるだろう。
本記事は今のところ数少ないワタミ側の立場に拠り、既に報道されている一方でこのような事象が発生している、という事実を広く知らしめる意図のものであることを強調したい。
ワタミの宅食、何がアウトだった?
さて、当該記事中で、Aさんが被害を訴えている事項は次の通りだ。
<業務範囲>
- 所長として2つの事業所を担当させられ、たった一人で20人以上の配達員を管理。その他文書作成、商品管理、販促準備、営業所清掃、備品補充、配達の間違いや代金着服などの問題が発生した際の対処とクレーム対応など、業務は多岐にわたる
- 配達員の朝礼をグループごとに4回行う。その後も配達員の「道が分からない」などの質問への対応や、当日欠勤した配達員の代理で配達(代配)を行う
- 配達員に十分な研修がなされないため、同行してルートを教えるなどのフォローも必要
<労働時間>
- 通常午前7時台、早いときは6時台の出勤
- 配達員の退勤後も事務作業があったり、上司からの電話対応などで自身の退勤は午後11時を過ぎたりすることも珍しくない。1日6〜7時間の居残り残業は日常的
- 帰宅後にも代配対応や納品対応、機器の不具合などで出勤する必要があったほか、土日にも宅配を行う拠点のため、週末も電話対応せざるを得なかった
- 多くの顧客を抱えていた配達員が辞めた際は、土日を含めて毎日「代配」を行い、多い日には40軒ほど回った
<待遇や労働環境>
- 何時間働いても残業代は固定されており、追加で払われなかった。これだけの業務量にもかかわらず、給料はわずか月26万円だった
- 配達員の採用ハードルは低く、不適任だと思っても所長に拒否権はない
- 上司に相談しても「配達員の教育がなっていない」と、むしろAさんの管理能力のせいにされてしまう
確かに、これだけを見聞きすれば「ブラックな環境」と断言して間違いないだろう。
ワタミ側は即座に謝罪の意と対策を発表
一方、ワタミは当該報道に対して即日リリースを発表した。記事内容を受けて謝罪の意を示すもので、「当社では、当該社員の主張を真摯に受け止めて、当該社員に深く謝罪いたします」「全面的に当該社員の主張を受け入れる所存です」と表明。労基署の指示に基づき、時間外労働、深夜労働、休日労働の割増賃金不足分を過去にさかのぼって再計算して支払うとともに、
- 事前に時間外労働に関する残業及び休日出勤申請の厳格化を行うなど、勤務管理を適切に実施できる体制を再構築する
- 「ワタミの宅食」全国所長会議を実施し、現場の声に一層耳を傾け、再発防止を徹底する
- 代表取締役会長兼グループCEOは月額報酬 50%の減俸を6カ月間、代表取締役社長兼 COOの月額報酬 30%の減俸を6カ月間とする
と発表した。
しかしYahoo!ニュースの続報記事では、この謝罪を「パフォーマンス」と断言。ワタミにおける労働時間短縮の取り組みについても「現場レベルではあくまでも労基署対策として位置付けられていた」と説明する。
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