「通勤」は減っていく? 東急の6700人アンケートから読み解く、これからの鉄道需要:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
東急は、アプリを通じて6760人に実施したアンケート結果を発表した。新型コロナの影響で在宅勤務などが広がり、鉄道の需要は低下。しかし、今後も定期券を更新する人は多く、転居しようとする人も少ない。通勤需要は元通りには戻らないが、ある程度回復しそうだ。
在宅勤務急増するも、通勤需要は8〜9割回復の見込み
資料の最後にあるように、回答者の男女比はほぼ6対4、年齢層は50〜54歳が最も多く、30代〜60代で大多数となる。このことから「通学よりは通勤の実情を反映しやすい」ことが分かる。そしておそらく正規雇用者が多い。その根拠は独立行政法人労働政策研究・研修機構が示すグラフ「図9 各年齢階級の正規、非正規別雇用者数」だ。
若い人には非正規雇用が多いと思っていたけれど、実は正規雇用者の割合が増えている。2019年までは景気回復効果もあって雇用が安定しつつあった。筆者が懇意にしている地方ローカル鉄道でも定期券売り上げが増えたと聞くし、東急の19年決算資料でも、コロナ禍が始まるまで定期券収入は前年比増が続いていた。
さらに付け加えるならば、スマートフォンアプリで実施したアンケートだけに、ある程度のIT活用能力を持った人たちの回答といえるだろう。この前提を元にデータを見ていく。
・項目1「外出頻度の変化」 緊急事態宣言下は「まとめ買い」
19年の外出頻度の平均は週5日だった。これは週休2日を反映した結果といえる。緊急事態宣言下の平均は2.1日だ。ゼロではないけれども、買い物など日常の生活のための外出は週2日。食品についてはまとめ買いが多いといえるし、毎日の散歩を日課とする人は少なかったとみられる。
コロナ収束後の見通しは平均4.2日で、用途までは読み取れないものの、外出頻度に関してはほぼ元通りに回復するとみられる。外出は通勤だけではなく、買い物なども含んでいる。また、鉄道やバスだけではなく、徒歩や自家用車も含む。
通勤など公共交通の利用度の変化は項目3「交通機関利用時間帯の変化」が示す。出勤・退勤時間の外出傾向は変わらず、全体的に総数が下がる。注意したい点は、このグラフでは24時以降に緊急事態宣言下の折れ線が右上がりになっている点だ。緊急事態宣言下で夜中の外出が増えたかと勘違いしてしまった。しかしこれは次の項目が「利用していない」で、本来はゼロになるところを折れ線で結んでしまったため「利用率40%」とミスリードを招いている。この図は折れ線で描くにはふさわしくない。棒グラフ、あるいは「利用していない」を削除し、有効回答数から差し引くべきだと思う。
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