やり直しの「MIRAI」(後編): 池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
新型MIRAIは、魔法の絨毯のような極上の乗り心地と、重量級GTとして破格の運動性能を両立している。しかしインフラとの兼ね合いなしにFCVの普及はあり得ない。後編ではそのインフラの今と未来をエネルギー政策全般を通してチェックしてみたい。
水素のスキーム
さて、そんなわけでさまざまな矛盾を飲み込みつつ、水素利用のスキームは全世界的に進みつつある。例えば、18年にはトヨタから「水素社会の推進に向け、Hydrogen Council(水素協議会)に複数のグローバル企業が新たに参画」というリリースが出ている。世界中の錚々(そうそう)たる企業が集い、水素社会の実現に向けて協力していく枠組みだ。
国内でいえば、トヨタはセブン-イレブン・ジャパンとの水素での協業も始めている。配送トラックをFCV化するだけでなく、店舗の電力源として据え置き型燃料電池を置いて、水素エネルギー利用を促進していく。さらにJR東日本との連携では、水素燃料電池による鉄道技術の開発も発表されている。
またトヨタは以前から、航続距離や再充填時間の短さなどさまざまな面からFCVと長距離トラックの相性の良さをアピールしてきた。トヨタ傘下の日野をはじめ、協力関係にある多くの商用車メーカーと共にFCVトラックの可能性を検討してきた。
意外にも、これら全ての中心にあるのがMIRAIである。MIRAIの燃料電池スタックはすでに大型バスのSORAなどにも転用されており、スタックを2台搭載することで大型バスにも適用可能になっている。大型トラックはもちろん、店舗の発電システムや電車の動力源としても、MIRAIの燃料電池スタックを複数組み合わせることで、いくらでも拡張できる。しかも燃料電池スタックはクルマの寿命程度では劣化しないから、廃車になったMIRAIの燃料電池スタックを店舗や家庭用に再利用することも可能だ。この方式なら、従来の価格から見ればタダ同然でシステムが構築できる。
実はMIRAIの燃料電池スタックは、その能力あたりコストで見ると驚くほど安い。現行MIRAI最終型の価格は約740万円。新型はこれより価格が下がると見られている。いずれにせよクルマの価格としては高額なのだが、1kW超えの燃料電池スタックとしては破格の安さだ。同出力の燃料電池スタックの単体価格は軽く1000万円を超え、場合によっては2000万円に迫る。クルマに組み込まれて740万円という値段は、全世界的に見てぶっちぎりの価格競争力を持っているのだ。
ちなみに家庭用の都市ガスやプロパンガスを使った普及タイプの据え置き型燃料電池は300万円程度で購入できるが、出力的には500W程度である。
さて、つまりMIRAIの燃料電池スタックがあるから、セブン-イレブンも、JR東日本も、商用車メーカーも共同事業を考える。水素の利用の中核にローコストで高性能なMIRAIの燃料電池スタックの存在があるのだ。
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