SKYACTIV-Xアップデートの2つの意味:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)
SKYACTIV-Xがバージョンアップする。新バージョンの発売は来年初頭とアナウンスされている。さて、となると興味はいくつかに分れるだろう。何がどう良くなるのかと、何で今バージョンアップなのか。おそらくその2つが焦点になる。
エンジンの味わいとは何か?
筆者がSKYACTIV-Xの優れているところを挙げるとすれば、それはエンジンフィールが持っている「艶」だと思う。高速燃焼を目指す現代の高効率エンジンは、どうしてもフィールがカサカサしていて味気ない。そういうものをわれわれは時代の流れだから仕方ないとして諦めてきた。しかしSKYACTIV-Xは、生まれたてで技術的に未成熟であるからなのか、そこにかつてのエンジンのような艶がまだ豊富に残っている。
「いやエンジンの艶ってなんだよ?」という人もいるだろう。おっさん世代ならば運転したことがあるかもしれないが、例えばホンダのZC型エンジンにはそういうものがあった。もっといえばローバー時代のミニに搭載されていたA型ユニットが持っていたものだと思う。
A型エンジンの時代には、対ノッキング技術がまだ低かった。現在のように点火タイミングをギリギリまで進められない。そしてキャブレターなので混合気の空燃比精度も低く、燃焼が遅い。そういう速度の遅い燃焼のピーク圧力と鉄シリンダーの共振特性によって醸し出されるフィールには、一種独特な豊かな艶感があった。
ピーク圧力が高まっていけば、燃焼音はディーゼルに近づく。純粋に機械としての効率が向上する代わりに、人の五感に訴える音として気持ちの良いものではなくなっていく。
しかしながら非効率な燃焼は燃費も悪いし、同時にCO2排出量も増えてしまう。艶がどうこういう世界は環境が許さなくなったのである。われわれもそれが避け難い現実だと分かっているから、艶がなくなってカサカサしていくエンジンフィールを諦めて黙認してきた。
しかし、うれしいことにSKYACTIV-Xにはそれがまだ残っている。多分こんなものが味わえるのは今の内だけで、SKYACTIV-Xの燃焼をどんどん理想化していけばやがて失われるものなのだろうと想像している。
もうひとつ、日本では「良いエンジンとは何か?」というところに誤ったストーリーが蔓延(まんえん)してきたところにも問題がある。ある回転から「カムに乗った」ように不意に吹き上がる、例えばVTECのようなドラマチックな二面性。そういう目の前で起こる濃く分かりやすい変化があるものが、エンジンの味だといわれてきたのである。
実は現在の技術からすれば、特定回転数でパワー感のあるエンジンを開発するのは全く難しくないが、今エンジンを開発している人たちはそんなものを作りたいとは毛ほども思っていない。もっと人の感覚にリニアで、身体機能の拡張のように自然な特性を理想としている。
最近EVが増えてきたことで、下からトルクのある動力源の良さが再認識されつつあるが、マツダが目指しているのはそういうものだ。ただし、ここで慎重に除外しておかなくてはいけないのが、低速からのワープ加速みたいなEVの加速味付けである。
ああいうのはVTECの鏡写しであって、ただの濃口(こいくち)、あるいは化学調味料による分かりやすい味に過ぎない。カレーが美味いかどうかの話をしているのに、「どこそこのカレーは何スコヴィルだ」といった辛さの評価値を持ち出すようなもの。根本的にそういう話じゃない。もっと全てに渡って、人の感覚に違和感ないことが目的なのである。
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