コロナ禍で服の“クリーニング離れ”が深刻化 成熟市場でも消費者の心をつかむために必要な3つの視点とは:復活のシナリオは(4/5 ページ)
全国的にクリーニング屋さんの店舗数だけでなく、消費者の支出も減っている。コロナ禍でますますクリーニングの需要が落ち込んでいる。成熟市場で再度成長するために必要なこととは?
クリーニングをDXの力で変えていくホワイトプラス
テクノロジーを活用し、新たなサービス展開で利用者数を増やしている企業があります。「Lenet(リネット)」というクリーニング宅配サービスを提供しているホワイトプラス(東京都品川区)です。コロナ下でも会員数を伸ばし続けています。会員数は40万人(20年5月時点)を超え、クリーニング累計1000万点という実績があり、クリーニング市場を変える新たなリーディング企業となりつつあります。
リネットは、注文から宅配手配までWebやアプリで完結します。自宅にいたままクリーニングに出せるネット完結型クリーニングサービスです。同社が事業をスタートさせたのは09年。起業にあたり今の経営陣となっている仲間と共に、日常の生活の中で不便・不満を感じていることをあれこれ挙げたのだそうです。その中にクリーニングサービスがありました。「コンビニは24時間開いているのに、なぜクリーニング店は仕事が終わる時間帯に店が開いていないのか」「休みの日にクリーニングに行くと受付に列ができていて待たないといけない。そしてまた取りに行かないといけない。その時間がもったいない」など、クリーニングには不満を感じている人も多いのではないかと考えたのです。
「ネットの力で世の中の不便をなくせるか」「時代の流れにあっているか」「世の中を変えられるビジネスか」――この3点でネットを活用したクリーニング事業に参入することを決めたのです。
スタート時はクリーニングの知識もなく取引してくれる工場もなく、かなり苦労したようです。しかし、事業の可能性を信じ、工場にはりついてサービス内容を改善していった結果、共感して協力する工場もでてきて、業界の常識を変える新しいサービスが作られていったのです。
同社がネット完結型クリーニングサービスを軌道に乗せられたのは、3つのポイントがあると思います。1つ目は市場性、2つ目にセンターピンを見極める目利き力、3つ目にビジネスモデルの優位性です。
(1):市場は縮小しているが一定以上の市場性があること
クリーニング市場は、世帯MSで4647円、1人当たりMSでは1787円あります。つまり減少しているとはいえ、日本のクリーニング市場は2000億円以上の規模があるのです。新規参入するにあたっては十分な市場規模があったということです。
(2):利用者の不満に直接向き合うサービスを開発したこと
飽和しているクリーニング市場において一番の課題だった点は「利用したい時に利用できない」という業界常識でした。これこそが改革のセンターピンです。例えば、ワイシャツのクリーニングは多くの客が利用するサービスであり、もっともMSが大きいサービスであるにもかかわらず、そのサービスを利用したいビジネスパーソンが一番利用しづらかったのです。
今でこそ残業が減り、仕事帰りにクリーニングも出せるようになりました。しかし、店で待ったり取りに行ったりという手間はかかります。このような不満を直接解消するためには、これまでのビジネスモデルを抜本的に変える必要があります。それは自社のサービスの否定につながり、結果的に変革が遅れます。だからこそ同社のような新規参入事業者が、DXによって本質的なサービス改革をできたのです。
(3):リピート客を確保できるストック型ビジネスモデルにしたこと
同社の戦略で最も秀逸なのは、有料会員制というストック型ビジネスにしたことです。通常会員以外に、月額390円(税別)で登録できる「プレミアム会員」を設けて、よりお得に使えるオプションと納期に変更しました。クリーニングで有料会員制を導入するわけですから、明らかに既存のクリーニング店舗とは異なるサービス品質が求められます。
そこで同社ではベンチャーキャピタルから出資を受け、オペレーションを改革するためのシステム投資に力を入れたのです。それによりクリーニングを預かってから届けるまでに当初は5日間かかっていたサービスを、最短2日で届けられるようなシステムに作り変えました。また、早朝6時から深夜0時までの集配や翌日届けを可能にしたり(東京23区ほか一部エリア限定)、シミ抜きや毛玉・毛取り、抗菌防臭加工、洋服にトリートメントをする「リファイン加工」などのケアサービスを毎回標準で利用できるようにしたのです。
こうした取り組みが評価され、19年度のグッドデザイン賞を受賞しました。これは、同社のサービスが徹底的に客の立場で考えられたものだからでしょう。
さらに最近は、新規客獲得のためにテレビCMを打つなど、広告宣伝費にも投資をしています。クリーニング業界でCMを打つこと自体、業界の常識を覆しているといえます。
クリーニング業界はこれまで「集客難」にあえいできました。しかし同社のサービスはストック型のビジネスであり、しかも全国を商圏にできるネットサービスです。立地のよしあしに左右されずに客数を安定的に確保できるようにしたことで、同社は会員数を大幅に伸ばすことができたのです。
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