運賃「往復1万円」はアリか? 世界基準で見直す“富士山を登る鉄道”の価値:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
富士山登山鉄道構想について、運賃収入年間約300億円、運賃は往復1万円という試算が示された。LRTなどが検討されている。現在の富士スバルラインと比べると5倍の運賃はアリなのか。国内外の山岳観光鉄道を見ると、決して高くない。富士山の価値を認識する良いきっかけになる。
なぜ「電気バス」ではダメなのか
ところで、富士山登山鉄道構想は初期段階で「鉄道整備で環境を改変するよりも、BRT(バス高速輸送システム)とし電気バスを走らせる」という意見もあったと記憶している。最大のメリットは「道路をそのまま使える」だ。建設コストは低い。
上高地のようにマイカーを規制すれば渋滞はなく環境負荷も下げられる。上高地はタクシーも認められているけれど、富士登山BRTはバスに限定し、しかもバッテリー駆動にすれば排気ガスもない。立山黒部アルペンルートでは、黒部ダム〜扇沢間のトロリーバスに代わり、2019年から電気バスを運行している。
しかし、富士山登山鉄道構想検討会が20年2月に公開した「富士山登山鉄道構想 骨子(案)」では、電動バス(燃料電池バス・トロリーバスを含む)は候補から外れた。理由は「富士山の連続勾配に適用できないシステムだから」であった。
トロリーバスは景観と環境面で論外として、電動バスが連続勾配ルートで使えないとはどういうことか。モータージャーナリストの池田直渡氏に聞くと、「EVは大きなバッテリーを搭載し、少しずつ電流を流すという用途に向いている。勾配を上るために何度も負荷をかけると発熱が大きく、熱を逃がしきれなくなり、安全装置が働いて停まってしまう。EVは平坦路に適しており、約30キロの断続勾配では不向きだ」という。
近年、バスで採用が広まっている燃料電池は、発電装置「FCスタック」が発熱するけれどもバッテリーほどではなく、「FCスタック」の大容量化、増設で対応できる。
しかし、いずれにしても問題は下り坂だ。エンジンを搭載していないからエンジンブレーキが使えない。摩擦ブレーキに頼るほかなく、こちらも多用すればブレーキ液が沸騰してベーパーロック現象が起きる。エンジンブレーキの代わりとして回生ブレーキがあるけれども、これはモーターを発電モードにして負荷をかける方法で、バッテリーが充電容量に達すると発動しない(回生失効)となる。燃料電池の場合、回生ブレーキのためにバッテリーを積むと重量増となるからメリットは少ない。
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