運賃「往復1万円」はアリか? 世界基準で見直す“富士山を登る鉄道”の価値:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
富士山登山鉄道構想について、運賃収入年間約300億円、運賃は往復1万円という試算が示された。LRTなどが検討されている。現在の富士スバルラインと比べると5倍の運賃はアリなのか。国内外の山岳観光鉄道を見ると、決して高くない。富士山の価値を認識する良いきっかけになる。
鉄道車両については日本でもバッテリー駆動方式が採用されているし、JR東日本とトヨタ自動車が燃料電池車両の開発に着手した。富士山登山鉄道も検討の方向性として「バッテリーや燃料電池、非接触給電、架線レスシステム等の導入可能性の検討」を挙げている。鉄道車両の場合はブレーキ方式が異なり、ベーパーロックが起きない仕組みを選択できる。
「外部給電式」を目指すとしても、架線を張れば景観や環境改変につながりよろしくない。第三軌条方式、またはそれに変わる非接触給電方式など、架線レスシステムなどの開発が必要となる。非接触給電方式はJR東海がリニア中央新幹線の車内設備用電源として新型試験車両に採用した。ただしそれが動力用として使えるかは未知数だ。技術的課題は多い。
「富士山登山鉄道構想 骨子(案)」で気になるところは、「様々な研究開発や技術革新が進展」という部分だ。実用化されていない技術を前提とした新路線計画は危うい。川崎市営地下鉄も長崎新幹線も新技術に期待して頓挫している。車両について最も現実的な選択肢は燃料電池だと思う。
富士山登山鉄道構想検討会は、21年2月の総会で構想をまとめ、ユネスコにも速やかに報告するという。個人的に1往復1万円は懐に厳しいし、国土交通省も難色を示すかもしれない。しかし、富士山の価値を認識する良いきっかけになると思う。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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