社員が新型コロナ濃厚接触者でも慌てない! 休業・自宅待機中の賃金や補償の判断基準(3/3 ページ)
企業の従業員が新型コロナウイルスに感染した疑いがある際に発生する各種問題のうち、休業・自宅待機中の賃金の取扱い、発熱・咳等の症状がある(感染の疑いのある)従業員への対応方法、感染予防と企業の責任についてまとめました。
4.感染予防と企業の責任
前編「従業員が新型コロナに感染した際の労務対応チェックリスト -初動から対外的発表まで」および上記3の通り、企業は従業員に対して感染予防措置を徹底しつつ、感染が判明した場合には迅速かつ適切に対応していただくことが求められます。企業としては、「3つの密(密閉、密集、密接)」を避けるほか、各社の実情に応じてできる方法を検討していかなければなりません。
4-1.さまざまな予防策
感染予防として以下のようにさまざまな方策が考えられます。
(1)できるだけ人と人との接触自体を避ける
- 従業員にテレワークや時差出勤をしてもらう
- Web会議を利用する
(2)個人個人に気を付けてもらう
- マスクを着用してもらう
- 手洗い、手指の消毒を励行する
- 咳エチケットを守る
(3)職場、会議室等で業務を行わざるを得ない場合の対応を徹底する
- 換気をする
- 人と人との間の間隔を2メートル以上あける
- 会議を短時間で行う
- 会議の終了後、机をアルコール消毒する
(4)感染が疑われる人との接触を防ぐ
- 出社前の検温と出社時の検温をそれぞれ行う
- 発熱等の症状がある人が事業所または職場に入るのを防ぐ(入館をご遠慮くださいという張り紙をする)
4-2.企業の責任
企業は従業員の生命、身体の安全に配慮する義務を負っています(労働契約法5条)。企業がこの安全配慮義務に違反した結果、従業員が損害を受けた場合、その損害を賠償する責任を負います。企業がどのような安全配慮義務を負うかはケースによって異なりますが、予防策のうち企業として実行可能なものについては企業が義務を負うことになります。もちろん新型コロナウイルスの感染経路等については、はっきりとしたことが分からないケースもあり、従業員が感染してしまった事実のみをもって直ちに企業が責任を負うということにはなりません。しかし、企業が従業員の感染を予測できたにもかかわらず注意を怠り、その結果として従業員が感染してしまったような場合は、安全配慮義務違反の問題に発展します。
ただ、企業としては、最終的に安全配慮義務違反の損害賠償責任を負うかどうかを考える前に、まずは新型コロナウイルスに対する企業の方針を明確にし、従業員の不安を取り除きながら企業としてとるべき対応を取り、従業員に不信感を持たれないようにすることが一番の予防策といえます。
5.おわりに
新型コロナウイルスを取り巻く状況や政府の施策は日々変化しています。そのため、企業には、常に新しい情報へのアップデートを行いながら対応していくことが求められます。新型コロナウイルス感染拡大への対応については、杜若経営法律事務所「新型コロナウイルス感染症に関する労働問題Q&A」等も参考にしてください。
企業は、雇用維持の努力をしながら、企業の存続を図らなければならないという難局に直面しています。ぜひ皆で知恵を出し合いながらこの難局を乗り切っていきましょう。
岸田 鑑彦弁護士 杜若経営法律事務所
杜若経営法律事務所パートナー弁護士。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。平成21年弁護士登録、杜若経営法律事務所(旧 狩野・岡・向井法律事務所)入所。経営法曹会議会員。企業人事担当者向け、社会保険労務士向けの研修講師を多数務めるほか、「ビジネスガイド」(日本法令)、「先見労務管理」(労働調査会)、労働新聞社など数多くの労働関連紙誌に寄稿。著書「労務トラブルの初動対応と解決のテクニック」(日本法令)。
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