若い女性の売り上げ2倍! ハーゲンダッツ「クリスピーサンド」、原点回帰で見直した“王道の味”:前年比4割増の理由とは(3/3 ページ)
ハーゲンダッツ「クリスピーサンド」の販売が好調だ。2020年1〜10月の売り上げは前年同期比40%増。特に、10〜20代の若い女性では基幹商品の売り上げが2倍に伸びている。好調の理由は、クリスピーサンドの原点に立ち返った“味”の戦略転換だ。
“分かりやすい”味に、若い世代も手に取りやすく
「近年の期間限定商品は、パッケージや商品名から味を想像しづらく、“分かる人には分かる”という方向に行ってしまっていた」と太田氏は振り返る。19年の期間限定商品は「ウィークエンドシトロン」(フランスのレモンケーキ)や「マスカルポーネ&いちじく」などがあり、深みのある味わいがファンの支持を集めていた。
期間限定商品は毎年季節ごとに新商品として発売するため、“これまでにないもの”を求めることが多い。それももちろん大事な要素ではあるが、「新しいものを考えすぎてしまうと顧客ニーズと合致しないことがあると分かった」(太田氏)
そこで、20年の期間限定商品は開発の方向性を変更。“分かりやすく、多くの人に食べてもらえる味”を目指し、1月に「苺のトリュフ」、5月に「抹茶アンサンブル」、8月に「ヘーゼルナッツプラリネショコラ」、11月に「クアトロフォルマッジ〜4種のチーズとはちみつ〜」を発売。イチゴや抹茶、チョコレートといったアイスクリームの王道の味を生かした商品を中心に展開した。
10〜20代の若い女性の売り上げは、期間限定商品を含めたクリスピーサンド全体でも1.5倍に増えた。それには、こういった“分かりやすさ”が大きく寄与しているようだ。一目見ただけで味を想像しやすく、さらに、基幹商品の「ザ・キャラメル」は重厚感のあるパッケージから明るい印象に変わったことで手に取りやすくなった。「分かる人には分かる、というフレーバーだと、若い人が手を出しづらい。これまでに経験したことがあり、味わいが想起しやすいフレーバーだったことで、手に取ってもらえたのでは」と太田氏は話す。
クリスピーサンドは、アイスクリームの中でも高価格帯であることから、主な購買層は30代以上。そういった商品で、若年層の売り上げを大きく伸ばすことができたのは、ブランドにとって大きな成果になった。
若い女性に向けては、マーケティング施策も強化。初めて「音」にフォーカスした取り組みを実施した。クリスピーサンドの特徴である、ウエハースの“サクサク音”と音楽を融合させ、ヘッドフォンで聞いてもらうサンプリングイベントを1月に実施。自分の咀嚼(そしゃく)音を収集する仕掛けなど、ユニークなコンテンツを打ち出した。人気の動画投稿アプリ「TikTok」を活用した発信も行った。
今年の販売傾向から、21年以降も「買う前に味が想像できて『おいしそう』と思ってもらえるような商品を開発する方向性を大きく変えることはない」(太田氏)という。それに加えて、手に取ってもらうための仕掛けも増やしていくことが課題だ。クリスピーサンドの認知率はカップ商品と比べても大きく劣らないが、実際に購入する人の割合は少なくなるという。デジタル施策なども取り入れて「手に取るきっかけをつくる」ことで、さらに幅広い層と接触する機会を増やしていく。
【更新:2020年12月18日13時 一部の数字、表現を修正しました。】
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