なぜ、企業研修・セミナーは「つまらない」のか 大学のオンライン授業で得た気付き:コロナ禍でオンライン化も進むが……(3/4 ページ)
「つまらない」と感じる人が意外と多いのが、企業研修やセミナーだ。コロナ禍を受けてオンラインで受ける機会が増えたが、面白いと思えるものは多くない。なぜ、つまらないのか。法政大学で講師を務め、オンライン授業も実施している筆者が解説する。
(1)学生に「伝わる」教材コンテンツになっていなかった
教材コンテンツを見直してみると、口頭で話していて教材に載っていないポイントが多く出てきました。教える側も学生もが初めて経験するオンライン授業です。教室と違って学生の受講環境も悪く話が聞こえないこともあるかもしれません。慣れないオンラインでは、集中力も途切れがちになることが容易に想像できます。学生が「どんな環境でも学生に伝わるよう」これまで口頭で話していた内容を、教材コンテンツを見れば分かるように盛り込みました。
(2)伝える情報の量が多すぎた
口頭で話していた内容を盛り込んでみたら、教材コンテンツが膨大な情報量になってしまいました。そもそも「伝える内容が多すぎた」のです。あまりに多くの情報をインプットしたところで、理解されなければ意味がありません。さらに教材コンテンツの構成を丁寧に整理し、伝えるべきポイントをシャープにして情報量をこれまでと比べて6割から7割に抑えました。
(3)集中力を保てる時間配分になっていなかった
リハーサル動画を撮影して見返すと、インプットの時間が長い箇所が散見されました。慣れないオンラインでは、集中力を要します。読者の中にも、リモートワークでWeb会議が続き、とても疲れた経験をした方は多いと思います。集中力が途切れれば、伝わるものも伝わらなくなります。そのため、コンテンツを15〜20分程度でいくつかに細かく区切り、集中力が途切れないよう再設計しました。
(4)学生ごとの理解度が測れていなかった
教室では学生の反応が見えますが、オンラインではできなくなります。そのため、学生の理解度が分からなくなるため、授業時間以外での個別に学生とのやりとりを増やしてみました。授業後に簡単なレポート提出してもらい、その内容に対してフィードバックを行いました。すると、学生も反応し始めコミュニケーションが活発化し、直接学生の理解度を測ることが可能になりました。
(5)学生同士の意見交換の機会が少なかった
これまでは大教室で行う聴講型の授業だったため、全体的にインプット中心の講義になっていました。何かを学習する上では、他者とともに学べる機会も重要です。そのため、Zoomのブレイクアウトルーム機能を活用し、学生同士で意見交換するアクティビティーを積極的に活用しました。初めは慣れなかった学生も、次第に活発に議論し始めるようになりました。
「オンライン」が悪者ではない
これを読んで、勘のいい方はお気付きになったかもしれません。これらは決して「オンライン特有の問題」ではないのです。逆に言えば、これまでの教室で行っていた授業では、対面の雰囲気もあり、何とかごまかしてこられたことが、顕在化した問題だと筆者は思っています。
筆者がオンライン向けに再構成を行った内容は、コロナ禍が終息し、リアルに戻った際にも生かせるものです。筆者自身も知らず知らずのうちに授業内容が定型化し、いつの間にか独りよがりの「伝える」という点に偏ってしまっていたのでは、と反省しました。最も大事なことは、受講者に「伝わる」という点です。何より主役は受講者であることを、オンライン化したことであらためて実感しました。
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