ガソリン車禁止の真実(考察編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)
「ファクト編」では、政府発表では、そもそも官邸や省庁は一度も「ガソリン車禁止」とは言っていないことを検証した。公的な発表が何もない。にも関わらず、あたかも30年にガソリン車が禁止になるかのような話が、あれだけ世間を賑わしたのはなぜか? それは経産省と環境省の一部が、意図的な観測気球を飛ばし、不勉強なメディアとEVを崇拝するEVファンが、世界の潮流だなんだと都合の良いように言説を振りまいたからだ。
さて、この架空の議論、つまり「EV一本化」は経済政策としてどうなのかをここから検証したい。
EVはまだまだ誰にでも買える値段ではない。日産は懸命の努力で最廉価モデルを330万円で販売しているが、1つ上のグレードは392万円だ。普通のクルマはここまでグレード間の価格差はない。つまり最廉価モデルは相当に無理をしていることが分かる。テスラにいたってはモデル3の最廉価モデルが520万円だが、実はわずかな期間だけ390万円のモデルが存在した。しかしその390万円のモデルはすでに販売を終了して、現在は520万円がスターティングプライスとなっている。
要するに21年現在、EVの実質的最低価格は400万円程度が精一杯である。従来のクルマは、下は軽自動車が80万円台、コンパクトカーが100万円程度から購入できたし、ハイブリッドでもディーゼルでも200万円程度だ。
という話をすると、「中国では42万円の電気自動車が出た」という人がいるが、それならそれで、世界の衝突安全基準をクリアして日本でも42万円で売ればいい話だ。現実的にそれができていない。日本のユーザーにとっては絵に描いた餅に過ぎない。できるならやるべきだろう? テスラの廉価モデル打ち切りにしても、中国製EVの未輸入にしてもそれはEVサイドの不作為だろう。ソバ屋の出前みたいに「革命的な価格になるのはもうすぐですから」と言われても「それはそうなったらね」としか返事ができない。
「ガソリンスタンドに行かなくて済む分EVの方が快適だ」などと言う主張も見受けるが、世間はそれに納得していないし、航続距離にも不安を持っている。一般家庭用のモビリティのあり方として、航続距離をそこまで気にする必要があるかといえば筆者もそうは思わないが、マーケットは、ただそこに存在する結果で、正しいか間違っているかという理論は意味をなさない。
いわば「この天気図なら雨が降るはずだ。現在雨が降らないのは間違っている」みたいな話である。雨は降っていない。それのみが事実なのだ。マーケットが選んだ結果を「無知だから間違った選択をしている」と思うのは勝手だが、それでお節介な布教活動を始め、嫌がる他者の考えを変えさせようとするのは自意識の過大な肥大である。他の言葉で言えば夜郎自大とか増上慢という。マーケットはお金と商品のバランスを見て、今最もバリューフォーマネーなものを選ぶ。そういうもので、それ以外の意味はない。
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