「生産性」「人材」で世界に後れ イノベーションランキングに見る、日本の深刻な位置付け:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
経済団体のリーダーたちが連呼する「イノベーション」。世界と比べると、日本は決して進んでいない。ランキングでは他の先進国に後れを取っている。特に、生産性と専門教育が弱い。世界の課題はコロナ後のイノベーション復活だが、日本にとってはチャンスにもなる。
「コロナ後の復活」が大きなチャンス
ではどうすればイノベーションに強い国になれるのだろうか。実は、日本は20年の「世界イノベーションランキング」では、イノベーションのインプットの評価は高かった。つまり、投資や規制の整備など環境づくりが最近、進んでいると考えてもいい。それ以外では、インフラなどの評価は高いが、逆にまだ弱く課題となっているのは、イノベーションの創出と人的資源・研究の指標だった。人材などは足りていないということだ。
このレポートによれば、新型コロナも世界中でイノベーションにマイナスの影響を与えている。コロナ後にどうイノベーションを復活させるのかが、各国には大きな課題になるという。ただそれはチャンスでもある。
コロナが落ち着き、米国を中心に環境問題に力を注ごうという機運が高まる中で、日本も環境問題に取り組もうと動き始めている。そうした転換期には、イノベーションを生めるような土台を作るべく、あらためて上記のランキングの評価ポイントで見てきたような分野でイノベーションの環境づくりの見直しもできるのではないか。経済団体のリーダーらが言うように、これからはイノベーションなくしては日本が世界に伍することはできないのである。
ただそれには強いリーダーシップが必要になるだろう。何年も先の日本を見据え、中長期的なビジョンを描けるリーダー。菅首相がそんなリーダーになれるのかは未知数だが、今すぐにでも国として動き出す必要がありそうだ。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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