鉄道模型は「走らせる」に商機 好調なプラモデル市場、新たに生まれた“レジャー需要”:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
巣ごもりでプラモデルがブームに。鉄道模型の分野では、走らせる場を提供する「レンタルレイアウト」という業態が増えている。ビジネスとしては、空きビルが出やすい今、さらなる普及の可能性がある。「モノの消費」から「サービスの消費」へのシフトに注目だ。
スキーやボウリングのようなレジャー形態
鉄道模型分野は鉄道趣味の中でも少数派かもしれない。最もおカネと時間がかかる趣味といえる。だからレンタルレイアウトもマニアックな業態に見えるかもしれない。しかし、自分で道具をそろえ、遊び場に行き、使用料を払って楽しむという形でみれば珍しくない。スキーやスノーボードを買ってスキー場へ行く遊びと同じだ。
鉄道模型情報サイト「横浜模型の秘密基地」に全国の店舗がまとめられていて、模型店併設型、飲食店併設型、レンタル専門型を合わせて全国に約180店舗ある。ちなみに全国のネットカフェは約1300店舗、ボウリング場は約380カ所。タミヤが紹介する「ミニ四駆」のサーキット併設店は577店舗だ。これらの数には及ばないものの、鉄道模型のレンタルレイアウトはビジネスとしても文化としても定着した感がある。
レンタルレイアウトをビジネスとして捉えると今がチャンスだ。リモートワークの普及でオフィスに空きが出て賃料が安くなる。そこに台枠とレイアウトを設置する。飲食を伴わなければ造作費用は大きな平台程度。あとは線路を敷き詰める。凝った建物や風景も必要だけど、誰かに作ってもらうというより、鉄道模型好きなオーナーがコツコツと増やしていくような印象がある。
実は筆者もやってみようかと物件を探してみた。しかし、東京近郊の賃貸ビル相場ではなかなか難しい。ビルのオーナーが開いたテナントスペースを使う、というパターンがふさわしいかもしれない。アマチュア模型連絡会のWebサイトの閉店リストには128店舗もある。そういえば、ネットカフェ「スペースクリエイト自遊空間JR琴似駅前店」もレンタルレイアウトがあり、いつか立ち寄りたいと思っていたけれど閉店してしまったようだ。複合カフェは漫画やネットのほかにビリヤード台を設置する店もあり、実験的な取り組みだったようだ。
韓国では1990年代末期にアジア通貨危機があり、IT戦略「Cyber Korea 21」でADSLの普及を推進した。すると企業倒産で空いたオフィス物件でインターネットカフェが始まる。その競争の結果オンラインゲーム対戦が盛んになり、スター選手が現れ、テレビで注目されてプロゲーマー誕生に至った。
テナントビルが不況になると新業態が盛んになる。その一つとしてレンタルレイアウトという形態を捉える価値はありそうだ。今まで鉄道模型の市場はメーカーの商品を中心とした「モノの消費」市場だった。これからはレンタルレイアウトという「サービスの消費」も注目したい。これは鉄道模型メーカーの商機でもある。トミックスの「鉄道コレクション」、天賞堂の「T-Evolution」は、鉄道模型を新たなレジャーに転換する存在になるかもしれない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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