ユニリーバ流「人事制度はこう作る!」 自由な働き方「WAA」が成功した5つの秘訣と導入の極意とは:ITmedia人事部長・ミコダが行く:ユニリーバ【前編】(1/3 ページ)
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスでは、2016年に人事制度「WAA」(Work from Anywhere and Anytime)を制定し、働く場所と時間を社員が選べる新しい働き方を取り入れた。制度の導入を先導した島田由香さん(取締役人事総務本部長)に、アイティメディアの人事部長・三小田(ミコダ)がインタビューを行い、人事制度の導入の秘訣を聞いた。
新型コロナウイルスの影響で従来の働き方が見直されていることをきっかけに、自社の人事制度や働き方について考え直す機会が増えた人事担当者が多いのではないだろうか。アイティメディアの人事部長、三小田(ミコダ)もその一人だ。
多くの人事担当者が悩むのは、人事制度に“絶対的な正解”がないからだ。「新しい概念や手法を学ぶだけでなく、実際に成功した取り組みを行っている企業に話を聞き、その秘訣を知ることが学びにつながるのではないか」――本連載では、そのように考えた三小田が先進的な取り組みを行う企業にインタビューした様子をレポートする。
今回話を伺ったのは、「ダヴ」や「リプトン」など多くの日用品や食品を取り扱うユニリーバの日本法人、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの取締役人事総務本部長、島田由香さんだ。2016年に人事制度「WAA」(ワー、Work from Anywhere and Anytime)を制定し、働く場所と時間を社員が選べる新しい働き方を取り入れた。
WAA(Work from Anywhere and Anytime)とは?
ユニリーバ・ジャパンが2016年7月1日から導入した人事制度。働く場所・時間を従業員が自由に選べる。業務上の支障がなければ、理由を問わず、自宅、カフェ、図書館など会社以外の場所で働くことができる(※現在は新型コロナウイルスの影響で、在宅勤務を推奨している)。また、平日午前5時〜午後10時の間で自由に勤務時間・休憩時間を決められる。
働く場所や時間の自由に対する理解がまだ乏しかったコロナ禍以前の社会の中で、ユニリーバはどのように制度を作り、定着させたのだろうか。その過程の中には、現在新しい働き方に対応することに苦労している企業が参考にできるヒントが隠れているのではないだろうか。
対談の内容を、制度の導入にまつわる【前編】、ネガティブな意見を解消し、社内に浸透させる方法を尋ねる【中編】、コロナ禍での制度の応用や、これからのオフィス戦略を伺う【後編】の3本で紹介する。
人事制度は「何のためにやるのか」を考えて導入せよ
アイティメディア 三小田(以下、三小田): 働く時間と場所を従業員が自律的に選ぶという、WAAの取り組みは素晴らしいと思います。一方で、同じようなことを目指し、苦労している企業も多いです。おそらくその器だけを他社がまねしてもうまくいかないのではないかと思っています。
ユニリーバ 島田さん(以下、島田): そうですね。何か制度を取り入れる際、他社の事例を参考にする企業は多いです。しかしそのまま採用しただけではうまくいかないのはWAAだけでなく、どんな施策でもそうだと思います。
一番重要なのは、「何のためにやるのか」という目的意識です。それをユニリーバでは「パーパス」と呼んでいます。一つの人事施策に対しても、「何のためにこの会社が存在しているのか」という創業からのパーパスを意識しています。
ユニリーバは「小さなせっけんでも世界を変えられる」という思いから始まった企業です。当時、衛生状況が悪かったイギリスで手洗いの習慣を呼びかけた創始者の代から、「社会に対して前向きなインパクトを、私たちがリードして起こしていくんだ」というパーパスを持っている。WAAもそのパーパスに基づいているのです。
三小田: WAAのアイデアを考えたきっかけには、何か解決したい課題があったのでしょうか。それとも、社員が持つ力を最大限に発揮しかったという意図でしょうか?
島田: そこはまさに、重要なポイントです。WAAは特定の課題のためではなく、個人の多様性をより解き放つために、導入を進めました。ユニリーバは「Be Yourself=あなたがあなたらしくあることを尊重します」というメッセージを企業全体で持っています。
私は日本で当たり前になっている働き方の不自由さにずっと疑問を持っていました。人事の立場で考えると組織は個人の集まりですから、従業員個人がいい生活を送ることは組織の成功にもつながります。どうすればそれぞれが持っている強みを解き放ち、「Be Yourself」な状態でいられるのかと考えたことからWAAは生まれました。
三小田: WAAを立案してから、実現するまではスムーズに進められましたか?
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