「どこでも働ける」から「在宅中心」に──自由な働き方を追求するユニリーバはどう変わった? 見直したのは“オフィスの役割”:ITmedia人事部長・ミコダが行く:ユニリーバ【後編】(1/2 ページ)
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスでは、2016年に人事制度「WAA」(Work from Anywhere and Anytime)を制定し、働く場所と時間を社員が選べる新しい働き方を取り入れた。しかし、コロナ禍では「どこでも働ける」環境が失われ、在宅勤務中心に変更した。自由な働き方を追求するユニリーバの働き方はどう変わっていくのだろうか。
「ダヴ」や「リプトン」など多くの日用品・食品を取り扱うユニリーバの日本法人、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスは、2016年に人事制度「WAA」(ワー、Work from Anywhere and Anytime)を制定した。
WAA(Work from Anywhere and Anytime)とは?
ユニリーバ・ジャパンが2016年7月1日から導入した人事制度。働く場所・時間を従業員が自由に選べる。業務上の支障がなければ、理由を問わず、自宅、カフェ、図書館など会社以外の場所で働くことができる(※現在は新型コロナウイルスの影響で、在宅勤務を推奨している)。また、平日午前5時〜午後10時の間で自由に勤務時間・休憩時間を決められる。
いち早く働く場所と時間を社員が選べる新しい働き方を取り入れ、定着させた秘訣は何なのか──アイティメディアの人事部長、三小田(ミコダ)実が、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの島田由香さん(取締役人事総務本部長)にインタビューを行った。
記事の前編・中編では、WAAの導入と浸透が成功した秘訣を紹介した。そしてWAAが始まって5年目となる20年、コロナ禍が訪れた。「どこでも働ける」という状態が失われた社会の中で、ユニリーバの働き方はどのように変わっていくのだろうか。
「所定労働時間をなくしたい」――コロナ禍での取り組み
アイティメディア 三小田(以下、三小田): ユニリーバはWAAの導入によって16年から「どこでも働ける状態」でしたが、現在はコロナ禍にあって在宅勤務のみの推奨とされていますよね。コロナ禍で新たに生まれた変化や、課題はありますか?
ユニリーバ 島田さん(以下、島田): おっしゃる通り、今はWAA(Work from Anywhere and Anytime)の“Anyware”が実現できません。移動も減ったし限られた空間にいる、変化のない生活が続くようになりました。社員からは椅子や机が合わない、腰が痛い、スクリーンが欲しいといった身体的な課題を聞くことが多いです。
小さなお子さんがいらっしゃる方は狭い家の中で仕事と育児の両立で苦労されているという声や、反対に一人暮らしだから人と話すことが少なくなり孤独を感じるという声もあります。
三小田: そういった声には、どのように対応していらっしゃるのでしょうか。
島田: 十分ではないかもしれないですが、いくつかの取り組みを行っています。
EAP(Employee Assistance Program、従業員援助プログラム)を強化して、専門のカウンセラーとお話できる枠を従来より増やしたり、対象を派遣や業務委託の方にも広げたりしています。
人事制度では、所定労働時間を1カ月で満たさなくてもいいということにしました。現在は法律をクリアする範囲で、2カ月で労働時間を調整するようにしています。このような施策は従業員に対し「あなたのWell Beingが一番大切なのだ」というメッセージを持って、行っています。野望としては、所定労働時間自体をなくしたいですね。
リモート中心でも「オフィスは必要」、その役割とは?
三小田: そのように働き方が変わる中で、オフィスの在り方も変わってくるのではないかと考えています。実はアイティメディアもオフィスの4分の1を返却して、オフィスレイアウトを作り変えている途中です。ユニリーバでは、これからのオフィスについてどのように捉えていますか?
島田: すでにコンセプトを立てて、リノベーションを終了しています。5フロアあったうちの1フロアを返却して縮小しています。
もともと20年4月がオフィスの契約が切れるタイミングでしたので、今後のオフィスをどうするかについてコロナ禍以前から役員の中で議論がありました。
コロナ禍でさらにオフィスについて考えることが増えて「本当に必要なのか」ということも検討しました。その結果、「オフィスは必要だ」と結論付けています。しかし「役割は変わる」と思っています。
三小田: 新しいオフィスにはどのような役割を期待されていますか?
関連記事
- ユニリーバ流「人事制度はこう作る!」 自由な働き方「WAA」が成功した5つの秘訣と導入の極意とは
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスでは、2016年に人事制度「WAA」(Work from Anywhere and Anytime)を制定し、働く場所と時間を社員が選べる新しい働き方を取り入れた。制度の導入を先導した島田由香さん(取締役人事総務本部長)に、アイティメディアの人事部長・三小田(ミコダ)がインタビューを行い、人事制度の導入の秘訣を聞いた。 - 「一部の人だけテレワークは不公平」の声にどう対応した? ユニリーバの自由な働き方「WAA」が浸透した背景を探る
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスでは、2016年に人事制度「WAA」(Work from Anywhere and Anytime)を制定し、働く場所と時間を社員が選べる新しい働き方を取り入れた。しかし、工場やお客さま相談室など、一部の従業員は制度の対象外だった。「不公平」という声も上がる中で、どのように制度は浸透していったのか。島田由香さん(取締役人事総務本部長)に聞いた。 - オフィス移転計画中にコロナ襲来──混乱の中で1000人以上が一斉リモートワーク、KADOKAWA“総力戦”の背景
2020年11月、ところざわサクラタウン内にKADOKAWAの新オフィス所沢キャンパスが稼働を始めた。多くの出版社が集まる飯田橋エリアのオフィスと合わせ「本社2拠点体制」となる。新型コロナウイルスの感染拡大は、新オフィス稼働時を目指して働き方改革を進めるさなかに起こった。総務・人事・ICT部門の横串で作られたABW推進チームは、想定外の一斉リモートワークをどのように乗り越えたのか。また、コロナ禍にオープンした所沢キャンパスは、現在どのように活用しているのだろうか。 - フリーアドレス、業績連動評価、年俸制……良かれと思った施策が失敗した理由とは?
あらゆる人事施策には、メリットとデメリットがあります。他社にとっては良い施策でも、自社で導入してみると合わなかったということも起こり得ます。今回は、フリーアドレス、業績連動評価、年俸制の3点について、よくある誤解とその原因、対策を事例を交えてお伝えします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.