世界から非難されるミャンマー 日本企業は“ビジネスの危機”を乗り越えられるのか:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
ミャンマーで軍によるクーデターが発生。米国が経済制裁を強化する可能性もあり、現地に進出する多くの日本企業のビジネスが制限されることに。そして中国の存在感も強まる。この状況を救えるのは、ミャンマーとつながりを築いてきた日本政府だ。
ミャンマーで日本企業がビジネスを続けるためには
特に、現在の菅政権は外交的にはいまいちパッとしない。「自由で開かれたインド太平洋」構想で米国やインド、オーストラリアと電話協議をしたり、東南アジアを訪問したりしているが、あまり目立たない。しかも、もともとこの「自由で開かれたインド太平洋」の背景にある米日豪印による安全保障対話の枠組み「クアッド」は、安倍晋三前首相が提唱したものであり、菅首相がリードするイメージは正直ない。だからこそ、そこに菅外交として尽力していくべきだろう。
そんな中、ミャンマー問題は日本にとって、外交で存在感を示すいい機会となる可能性がある。
米国のために仲介役となって、ミャンマーをつなぎ止め、中国の影響が強くなりすぎないように動き、国軍に対して影響力を行使できるように努める。そうすれば、ミャンマーが中国に依存しすぎないようにもできるかもしれない。
そうすることで、日本企業もミャンマーでこれまで通りビジネスを継続できるはずだ。
ここはひとつ、菅首相に期待したい。新型コロナウイルスが猛威を振るっている最中に政権を引き継いだ菅政権にとって、ミャンマーは重要なポイントになるかもしれない。日本とミャンマー国軍とのつながりによって、ミャンマー問題が新政権の最初の試練だと言われている米国に対して恩を売ることもできる。
そうすれば他の分野でも米国からの協力を得られやすくなる。電話会談で「ヨシ」「ジョー」と呼び合うことに決めたという両者だが、それはあまり意味がない。結局は通訳を介してしかコミュニケーションをできないなら尚更だ。ただミャンマー問題を介して、形だけではない本当の信頼関係を築けることになるかもしれない。
今、菅首相はまずミャンマーとの協議に力を入れるべきだろう。
それが日本のミャンマーでのビジネスにもつながる。クーデターで世界から非難を浴びるミャンマーを見捨てずに、つながりを強化した方がいい。それが日本の利益につながることになるのだ。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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