再度利益上方修正のトヨタ その背景と森氏への苦言:池田直渡「週刊モータージャーナル」特別編(5/6 ページ)
トヨタ自動車は第3四半期の決算を発表し、期首に5000億円だった年間利益見通しは、第2四半期に続いて2度目の上方修正を加えて、ついに2兆円に達した。
転んでもタダでは起きない
次いで「諸経費の増減」と「その他」である。本連載を読んでいただいている読者の方は先刻ご存じの通り、トヨタの特殊性はこういう落ち穂拾いのような細々した節約を徹底して行えるところにある。ただし今回はコロナまで利用してみせたところがまたすさまじい。
トヨタは長らく「現地・現物主義」を掲げてきた。「事件は会議室で起きているんじゃない!」というアレである。常に現地・現物を確認し、そこで起きていることを基点に判断する。
しかし、コロナによって移動は制限され、リアルな会議も難しくなった。そういう中では、どこの会社もリモートでの働き方を余儀なくされたわけだが、トヨタはこれを「カイゼン」のチャンスと捉えた。それは「現地・現物」の全否定ではない。変えられないものと変えられるものを峻別(しゅんべつ)し、リモートの方が良いものには、さらに付加価値を付けていった。
例えば大規模な会議を行う時、従来であれば会場やコスト、通常業務を回すための人手や時間の不足などによって、参加人数は制限されてきた。しかし、これをリモート化することによって、そうした制約がなくなる。従来よりも多くの「参加すべき人」がより遠くからより効率よく会議に参加できるようになった。100年に一度の大改革を遂行していくに際し、より多くの関係者に理念や目的を直接伝えられることのメリットは大きい。加えて移動や宿泊のコストも削減することができる。
今後トヨタは「現地・現物主義」のより高精度な使い分けを新しいノーマルにしていくだろう。トヨタの中の人達はこういう無数の改革にずっと寄り添っていかなくてはならないという意味で、ある種のすさまじさを感じる。それを勤勉と誇りの中で成し遂げていく人々はスゴいが、さぞかし大変だろうと想像する。
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