トヨタの決意とその結果:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
残念ながらリーマンショックまでの10年間、トヨタは調子に乗っていた。毎年50万台水準で増産を続け、クルマの性能を無視してまで工数を削っていった。しかし結果、リーマンショックの時は15%の生産ダウンで、4600億円の赤字を計上した。そこからカイゼンを積み重ねたトヨタは、コロナ禍にあっても四半期で黒字を保てるほどの強靭(きょうじん)化を果たした。
8月6日、トヨタは2020年度第1四半期決算を発表した。トヨタの第1四半期は、4月から6月の3カ月。となれば、この発表の焦点はもちろん新型コロナの影響だ。
という話の前に、一度時系列を5月12日まで巻き戻そう。ゴールデンウィーク明けから一週間。まだ緊急事態宣言は解除されていない。さすがに「2週間後、東京はニューヨークのようになる」といった言説は、4月末には空振りが確定していたが、かといって、日本のコロナ対策が再評価されるのはこの時点よりまだ10日近く先で、ましてや緊急事態宣言が解除になったのは25日のことだ。
つまりどんどんひどくなっていく恐れこそ少し弱まったが、だからといって、リカバーまでの道のりはまだ全く見えず、決死隊を1名選抜して買い物に行くような日々を国民全体が送っていた時期である。そういう状況下で迎えた19年度本決算(解説記事参照)だ。この時財務担当による決算資料の発表・説明の後に、豊田章男社長がスピーチを、さらに小林耕二執行役員と寺師茂樹執行役員を加えて質疑応答を行った。
蓋を開けてみれば、この未曾有(みぞう)ともいえるコロナ危機からのわが国の経済復興をトヨタが担う決意表明が強くにじんだものだった。発表された肝心の決算は、概ね売り上げ30兆円、利益2兆5000億円。いってみればコロナ影響の直前決算といえるほど影響は軽微で、その内容は万全といっていい出来だった。
しかしながら、この本決算発表時、コロナによる歴史的な経済ショックが、最低限、3-6月つまり第1四半期を直撃することはすでに誰の目にも明らかだった。さらにこの時点で、コロナが経済に与えるマイナスインパクトはリーマンショックを上回ることがほぼ確実視されていた。忘れられないのは、リーマンショックの直前の07年度決算で2兆2700億円の利益を計上したトヨタが、翌08年度決算では一転4600億円の赤字に沈んだのだ。
5月12日の時点では、果たしていつになればコロナがピークアウトし、多少なりとも経済活動が行えるのかは神のみぞ知る状況だったことは多くの人の記憶に新しいと思う。
この状況で、通期見通しを発表する会社はないだろう。筆者がそう思って臨んだトヨタのオンライン決算発表会で、驚いたことに、その通期見通しが発表されたのだ。
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