EVはクルマか否か アップルも参入の戦いで「敗れる者」と「残れる者」:高根英幸「クルマのミライ」(4/4 ページ)
100年に一度の大転換期と言われる自動車市場。電動化を進める自動車メーカーの一方で、最初からEVで攻勢をかける新興勢力が続々と誕生している。その一方で北米市場では、テスラは顧客満足度では主要なブランドでは最下位となるほど、ユーザーは細かなトラブルに見舞われている。
クルマに何を求めるかが問われる時代になっていく
従来であれば、日本独自の法規制や保安基準によって、日本市場への参入にはそれなりのハードルがあった。しかし保安基準の国際化で、そうした参入障壁は確実に低くなっており、欧米に進出しようとする新興EVメーカーにとって、日本市場も欧米市場も参入の難しさは違いがなくなっている。つまり中国のEVが日本市場に進出し、徐々にだが確実に存在感を増していくのは間違いない。
そうして自動車市場が変わっていくのであれば、我々クルマを使う消費者も変わらなければならない。もしクルマに瑕疵(かし)があってもリコール制度によって改善されるだろうという考えは甘い。テスラの例を見れば分かるように、日本では販売台数が少ない車種についてはリコールの対象にそもそもならないことが多いのだ。
今後のカーライフをカーシェアリングで済ませるユーザーは車種を選ぶ余地は少ないから、そもそも考える必要性は薄いのかもしれない。ともあれ従来の感覚でクルマに絶大なる信頼を求めるのであれば、今後は慎重に吟味してから選択しなければ、後悔することになりかねないのだ。
日本の、ともすれば「お客様は神様」という感覚は、現在のトヨタ・ヤリスで終わりを告げるかもしれない(余談だが、筆者はお客と店の関係は、貨幣と物品の等価交換に過ぎないと思っている。お客と店員の立場など、時間と場所で瞬時に入れ替わるからだ)。
アップルが遂に自動車市場に乗り込むという情報が、さまざまな形で伝えられている。iPhone同様、製造を委託するのは自動車メーカーのノウハウを利用したいことと、生産設備などの初期投資を抑えられる以外にも、生産台数の調整をリスク少なく行えるというメリットもありそうだ。
売れ行きや、自動運転などの開発状況によっては、車両販売を諦め、自動車メーカーにソフトウェアを提供する存在へと方針を転換することもあり得る。それがファブレスの強みの一つでもあるからだ。
ダイソンが参入を諦めたように、アップルも参入を断念する可能性はゼロではない。それはクルマが、乗員や周辺の人間の生命を左右しかねない、それほどに責任のある機械であるからだ。それを扱う我々も、この激動の時代に対応していかなければならないのである。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行なう「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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