「女性社外取締役」が増えると、男女格差が広がる皮肉なワケ:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
オリパラ組織委員会の会長人事の議論が盛り上がるなか、民間企業では着々と女性の経営参画が進んでいる。不二家が女優の酒井美紀さんを社外取締役に大抜てきしたが、筆者の窪田氏は「女性社外取締役が増えれば増えるほど、男女格差が広がっていく」という。どういう意味かというと……。
政治、行政、マスコミを「変える」
では、このようなおじさんが現状維持のため、能力のある女性を利用する、という日本の構図はどうすれば変えられるのか。いろいろな意見があるだろうが、筆者は世の中を変えるきっかけとなる「権力」、つまり、政治、行政、マスコミから先に変えていくしかないと思っている。
民間企業や一般国民に「これからは多様性が大事だ」と偉そうなことを言っても、「おっさんだらけしかいないお前らに言われたくない」と壮絶なブーメランが突き刺さり説得力ゼロで、国民がシラけてしまうのだ。例えば、森氏を「世界に恥すべき女性差別おじいちゃん」として世界に大々的に発信したマスコミも、自分たちの組織では「女性差別」がデフォルトとなっている。
メディア関連労組の集まりである「日本マスコミ文化情報労組会議(通称MIC)」の「メディアの女性管理職割合調査」(2019年4月時点)によれば、新聞労連に加盟する全国の新聞社など計41社のうち30社で女性役員はゼロ。テレビの在京・在阪局ともに、報道部門、制作部門、情報制作部門の局長に女性は一人もいない。
また、この調査を受けて、新聞労連などが、民放連や新聞協会へ提出した「業界団体および加盟社の女性登用についての要請」によれば、マスコミ業界団体の女性役員の人数は、民放連45人中0人、新聞協会53人中0人、書協40人中1人、雑協21人中1人という感じで、森氏が牛耳る組織委員会のほうがよほどダイバーシティが進んでいる印象さえある。
ちなみに、森氏発言をいち早く問題視して、最近も「女性理事わずか16.6% 森氏発言があぶり出す社会のいびつさ」(2月12日)なんて講釈を垂れていた「毎日新聞」は、会社上法の役員7人中に女性はゼロ、執行役員を含む広義の役員でも17人中に女性は2人(11.26%)、女性の管理職比率も10%しかない。目くそが鼻くそを一生懸命吊し上げていたのが、最近の「女性差別発言」騒動の実態なのだ。
デジタル後進国ニッポンの政治家や行政の尻を叩いて、「いつまで紙の書類やハンコを使っているのだ、早くデジタル改革を進めろ」なんて偉そうに苦言を呈するマスコミが、いまだに紙の新聞の売り上げに頼り、「記者クラブ」という軍事政権などでしかお目にかかれない政府との「情報談合組織」で夜討ち朝駆けをしているように、ここにも目くそ鼻くその関係がある。政治、行政、マスコミがそろいもそろって改革が進まない背景には、閉鎖的なムラ社会の中で、もちつもたれつの馴れ合いの関係を長く続けてきたことがあるからだ。
女性社外取締役を増やすのもいい。日本が変わった姿勢を示すのに女性のリーダーを担ぎ上げてもいいだろう。しかし、どんなに国民が頑張ったところで、政治、行政、そしてマスコミの体質を根本的から変えるような改革を進めないことには、いつまでもたっても日本の男女格差は解消されないのではないか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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