なぜ会社は森喜朗氏のような「調整老人」がいないと、仕事が進まないのか:スピン経済の歩き方(1/5 ページ)
女性蔑視発言で国際的なバッシングを受け、引退に追い込まれていた森喜朗氏。周囲からの「辞めないでコール」によって不死鳥のごとくカムバックを果たしたが、なぜ会社や組織のトップに彼のような「調整老人」がたくさんいるのか。その背景を分析してみると……。
女性蔑視発言で国際的なバッシングを受け、引退に追い込まれていた森喜朗氏が、周囲からの「辞めないでコール」によって不死鳥のごとくカムバックを果たした。
熱烈ラブコールの一例を挙げると、「余人をもって代え難い」(自民党、世耕弘成参院幹事長)、「いないんですよ、森さんほどやれる人が」(政治ジャーナリスト、田崎史郎氏)、「世界各国の王族や政財界の重鎮が集まる国際オリンピック委員会(IOC)と相対し、国内のスポーツ界や関係省庁、経済界などと調整する仕事は誰にでもできるわけではない」(サンケイビズ 2月5日)など、もはや特殊能力者扱いだ。
要するに、人生をかけたアスリートのためだとか、人類がコロナに打ち勝った証だとか、いろいろなキレイ事を並べていた東京五輪の本質は、森氏という「スーパー調整老人」抜きにしては実現不可能なゴリゴリの政治イベントだった、というミもフタもない話だったのである。
そんなオリンピックならぬ、「モリンピック」に対して怒りを感じている国民もかなり多いだろうが、その一方で社会の厳しさを知るビジネスパーソンの中には、この森氏擁護の動きを見て「まあ、しょうがないよなあ」と妙に納得している方も少なくないはずだ。
どのような会社、どのような業界にも、程度の差はあれど、森氏のような「調整老人」が存在している。ある人は、会長や相談役という名誉職でありながらも、社長などより発言権があり、組織のすべてをコントロールしている。また、ある人は第一線から引退したと思ったら、業界団体の理事に居座り、大物政治家のごとく影響力を誇る。また、ある人は表舞台でないものの、ホニャララ業界の「ドン」として利権や利害を文句がでないようにうまく分配することで、「あの人ににらまれたらおしまいだぞ」なんて感じで恐怖支配を強めている。
要するに、オープンイノベーションだ、DXだ、新しい働き方だなんだと言いながらも、この国で何か大きな仕事を進めようと思ったら、それぞれの世界で「余人をもって代え難い」と評価される、森氏のような調整老人のお世話にならなくてはいけないのだ。そのシビアな現実を理解している人ほど、森氏擁護にまわりがちなのだ。
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