なぜ会社は森喜朗氏のような「調整老人」がいないと、仕事が進まないのか:スピン経済の歩き方(2/5 ページ)
女性蔑視発言で国際的なバッシングを受け、引退に追い込まれていた森喜朗氏。周囲からの「辞めないでコール」によって不死鳥のごとくカムバックを果たしたが、なぜ会社や組織のトップに彼のような「調整老人」がたくさんいるのか。その背景を分析してみると……。
調整老人の独壇場
「テキトーなことを言うな! オレの会社や業界では、あんなじいさんの世話になどなっていない!」と文句を言うビジネスパーソンもいらっしゃるかもしれないが、それはたまたまあなたがラッキーだったというだけの話で、日本の多くのムラ社会でいまだに「長老支配」が続いており、「世界一の調整老人大国」と呼んで差し支えない状況であることは、動かし難い事実なのだ。
例えば、PwCネットワークのStrategy&が2016年に、世界の上場企業の時価総額上位2500社を対象に調査をしたところ、世界の新任CEOの平均が53歳になっているところ、日本企業の平均は61歳。米国、西欧、中国、ブラジル、ロシア、インドなどどの国よりもダントツに高い。
実際、帝国データバンクの調査でも、20年の社長の平均年齢は60.1歳と右肩上がりで過去最高を更新。このうち、上場企業社長の平均年齢は58.7歳となっている。社長がこれくらいの高齢者ならば、その上で実権を振るう、「会長」や「相談役」はもっとお年を召してらっしゃることは言うまでもない。
分かりやすいのが、世界40数カ国で事業展開している日本電産だ。昨年、代表取締役執行役員最高執行責任者になった関潤氏は就任時、59歳。一方、創業者としていまだに絶大な影響力を誇る代表取締役会長CEOの永守重信氏は御年76歳だ。
“余人をもって代え難いシニア”が現役バリバリでリーダーシップを発揮するのは、なにも大企業に限った話ではなく、日本企業の99%を占める中小企業にもあてはまる。
中小企業庁によれば、25年までに中小・小規模事業の経営者で、平均引退年齢である70歳を超える約245万人のうち、127万人は後継者が未定だ。それだけ廃業のピンチにあるわけだが、裏を返せば「余人をもって代え難い」と老人が経営に居座り続ける企業が、数十万単位で存在していることでもあるのだ。
もちろん、世の中は広いので、70歳や80歳になっても、20代の社員たちと一緒になって靴底を擦り減らして営業をしているとか、最新技術を学んで若手技術者と一緒になって開発現場などでバリバリ働いている、なんて「現場主義の老人経営者」もいらっしゃるだろう。
しかし、ほとんどの老人経営者は「調整役」にまわるケースが多い。若い人にはない豊富な経験を生かして、組織内で調整型リーダーになったり、長年培ってきた人脈を駆使したりして、外部との折衝や利権の調整にあたることがメインの仕事になりがちなのだ。このような調整老人が日本にはいたるところであふれて、森氏のように組織にとって欠かせないキーマンになっている。この分野は経験と年齢がものを言う世界なので、若い世代は参入できない。完全に老人の独壇場なのだ。
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