バスケットボールが「スポーツくじ」の対象に 「スポーツベッティング」はスポーツ界の救世主となるか:日本にスポーツベッティングは根付くか(3/3 ページ)
2020年末の法改正で、バスケが「toto」の対象に追加予定となった。コロナ禍で資金繰りに苦しむプロスポーツも多い中、スポーツベッティングは新たな稼ぎ頭となるのか。
ここまで紹介した状況を受け、今後日本においてスポーツベッティング市場を発展させるためには、より多くの利用者を呼び込むための法整備を行うことが前提となるだろう。全面的なスポーツベッティングの解禁に至らずとも、対象スポーツの拡大とともに、還元率等を含めたtotoの法的な設計を見直すことなどが考えられる。
確かに、法的にスポーツベッティングを解禁ないし拡大することは、前述のような八百長や不正を招く恐れがある点で、もろ刃の剣かもしれない。しかし、新型コロナウイルスのまん延により危機的状況に陥っているスポーツビジネス界にとって救世主となる可能性がある。サイバーエージェントの発表によると、日本でスポーツベッティングを解禁した場合の市場規模は7兆円程度と推計されており、インパクトは大きいと考えられる。
オープン懸賞の形でスポーツベッティングも 包括的な議論が求められる
近時では、日本の賭博法制に違反しない、オープン懸賞の形を採用したスポーツベッティングに類似したサービスも発表されている。
湘南ベルマーレがいわゆるクラブトークンのプロジェクトを発表したことは記憶に新しいが、このプロジェクトの仕掛け人であり、ブロックチェーンを活用したサービスを展開するフィナンシェや、スポーツに関するファンマーケティングを手掛けるチアード、加えてeスポーツチームの「TEAM iXA」の3者が、勝敗予想により賞金の獲得が可能となるeスポーツの大会プロジェクトを発表したことも、スポーツベッティング市場の新たな可能性となるだろう。
このようなサービスは今後増えていくことが予想されるが、試合の結果などにより金銭のやりとりが生じる以上、八百長や不正が生じる可能性を完全には否定できない。スポーツとその競技者を守るためには、しっかりとした対策を取る必要がある。
また、前述のように、海外でのベッティングによる八百長などの危険が現に生じている以上、少なくともスポーツ賭博がないことを前提とした各競技団体の対策や対応については、これを見直す必要があるだろう。
その他、スポーツベッティングに関する議論として、ベッティングの対象とされるスポーツ側から、ベッティングの対象とされない権利(“right to consent to bets”)も提唱されている。八百長対策などのため、ベッティング事業者が得た金額のうち一定程度をスポーツ運営側に支払う「インテグリティ・フィー」の制度や、選手の個人情報を巡る権利関係なども整理し、スポーツ団体や選手を保護しながら、ベッティング事業者の収益をいかにしてスポーツ団体や選手に還元するかという視点での議論も行われるべきである。スポーツベッティングは、コロナ禍により大打撃を受けるスポーツ市場の新たな一手となる可能性があり、全面的な解禁は将来の議論だとしても、ベッティングの存在を前提とした包括的な議論が行われるべきであろう。
著者プロフィール・高橋 駿(たかはし しゅん)
弁護士、シティユーワ法律事務所所属。
2016年、早稲田大学法学部卒業。2018年、早稲田大学法科大学院卒業。
2019年、弁護士登録(第二東京弁護士会)、シティユーワ法律事務所入所。
企業法務、金融業務の他、スポーツ法務に注力している。
スポーツ法学会、第二東京弁護士会スポーツ法政策研究会に所属。MSBS第1期。
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