Clubhouseに関わるAgoraとZoom、2人の中国系創業者の意外な接点:浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(5/5 ページ)
ブームは一段落したが、現在も順調にユーザー数を伸ばす音声SNS「Clubhouse」。当初は、海外SNSを制限する中国でもアクセスできたため、関係者が試し、論評し、模倣する結果となっている。またアプリの音声技術を提供する中国企業「Agora(声網)」と、Zoomの創業者の意外な接点も見えてきた。
一方で、2人のキャリアやビジネスモデルに共通点は多い。まず両者とも、WebExで培った技術と課題を創業に生かし、独自の地位を築き上げた。
ユエン氏は、ビデオ会議の質を追求するため、Zoomを立ち上げた。自身の遠距離恋愛の経験から、当初はプライベートでの利用を想定していたが、企業の引き合いが多いことから、ビジネス向け機能を強化していった。
ジャオ氏は、「WebExを開発したとき、ネットワーク環境の問題で不具合が頻発し、『優れたコードを書けてもネットワーク環境はどうにもならない』」と失望し、一度は同分野から離れようとしたが、音声・ビデオ通信の活用シーンが広がるにつれ、改善を続けることで、ユーザーを納得させられると気づいた。
Agoraはアプリを開発する企業やエンジニアに、大規模で安定したネット通話技術を提供する道を選び、15年にライブ配信・ビデオ通話・音声通話をカバーするSDK(ソフトウエア開発キット)をリリースした。
YYがWeChatに淘汰された経験から、自社のサービスに技術を組み込むのではなく、多様な分野のアプリにAgoraの技術を組み込み、WeChatのような利便性をもたらすことを志向したようだ。
「米中のイイとこ取り」をしているのも、両者の共通点だ。Zoomの本社はシリコンバレーにあるが、開発部隊は高度IT人材をより低い賃金で獲得できる中国に置いていた。Agoraも上海とシリコンバレーの2拠点に本社を構える。
ただし、2つの国のイイとこ取りをしているが故に、米中関係が悪化する中で板挟みになりやすい点も、2社の共通点といえる。Zoomは昨年、米中両当局から圧力を受け、Agoraについてはスタンフォード大の研究チームが、Clubhouseのデータの一部が同社に流れている可能性が大きいとの調査結果を公表した。
Agoraの創業者の「裏方気質」は、米国の警戒を避けながら急成長を実現する大きなファクターだったが、Clubhouseに使われたことで突如脚光を浴びたのは、むしろ「誤算」だったのかもしれない。
筆者:浦上 早苗
早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37。
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