ジョブ型を志向するとき、大学ではどのような教育が求められるのか:立命館アジア太平洋大学・出口学長に聞く(1/2 ページ)
企業がジョブ型を志向し、教育と産業の架け橋を作ろうとするならば、大学教育に求められるものは何か。ライフネット生命保険の創業者で、現在は立命館アジア太平洋大学の学長を務める出口治明氏に聞いた。
企業がジョブ型を志向し、教育と産業の架け橋を作ろうとするならば、大学教育に求められるものはどのようなものになっていくのだろうか。日本生命保険を退職後、ライフネット生命保険を創業し、現在は立命館アジア太平洋大学(以下、APU)の学長を務める出口治明氏は、「今後、日本企業がジョブ型に転換していくのは自然な流れですが、だからといって大学が専門教育に注力すべきかというと、決してそうではないと思います」と話す。
リクルートワークス研究所『Works』
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本記事は『Works』164号(2021年2月発行)「日本におけるジョブ型への流れを大学は支え得るのか」より「ジョブ型を志向するとき、大学ではどのような教育が求められるのか」を一部編集の上、転載したものです。
人口増加と高度成長という前提ありきの特殊な労働慣行
「まず、日本以外のほとんどの国ではジョブ型での雇用が常識です。当たり前のことなので、ジョブ型と呼ぶこともありません。例えば街でラーメン屋を始め、繁盛して人が足りなくなった。そのとき採用したいのは、ラーメンを作る人、あるいはサービスしてくれる人などです。つまり、こんな仕事をしてほしいという“ジョブ”を決めて採用するわけです」(出口氏)
翻って日本ではどうか。私たちがメンバーシップ型と呼ぶものは、「戦後の人口増加、高度成長という2つの前提条件のうえに、新卒採用、終身雇用、年功序列、定年、企業内組合という5要素をセットにして動いていた特殊な労働慣行」と、出口氏は説明する。
「戦後の30年は平均で 7%の経済成長がありました。単純化すれば、毎年7%人を増やしていかなければなりませんでした。だからこそ、多くの企業が新卒採用市場に参入したのです。その前提が崩れた今、メンバーシップ型の労働慣行が機能しなくなるのは自明で、世界の常識と同じようにジョブ型に変わっていくのが自然なのだと思います」(出口氏)
ジョブ型であっても大学で学ぶのは考える力
しかし、「ジョブ型への移行=大学の専門教育への注力」と考えるのは短絡的だと出口氏は指摘する。「このように考えるのは、人が職業に就くまでの道筋は基本的に新卒一括採用であると一切疑っていないためです」(出口氏)。新卒一括採用では、大学での学びを終えた後、職業教育を経ることなくシームレスに企業に入社し、職場で職務に必要な教育を受ける。その仕組みをそのままジョブ型に適用するならば、入社後すぐに特定のジョブで能力を発揮してもらうために大学では専門教育を行うべき、ということになる。
「ここに思考の落とし穴がある」(出口氏)というのだ。「ジョブ型が普通の世界では、通年採用、中途採用で必要なときに必要な人材を採用するのが常識です。働く側も、必要なときに必要なことを学ぶ、というスタイルに変わるべきなのです」(出口氏)
そのような社会になったとき、特に高校を卒業して入学する人にとっての大学とは、「社会に出る前にクリティカルシンキング、ロジカルシンキング、教養など深く考える力を身につける場であるべき」と出口氏は言う。「深く考える力を大学で身につけ、そこで主体的に学んで本当に興味のあることを見つけ、専門分野を決める。高度な専門知識やスキルは大学院や専門学校などで身につけるというのが、一つのありようだと思います」(出口氏)
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