なぜ東北新社は「首相の息子で官僚を接待」というアウトな戦略を選んだのか:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
菅義偉首相の長男が、幹部官僚らを接待していたことが明らかに。それにしても、なぜ接待したのか。アウトな行為は、脈々と続いていて……。
永田町・霞ヶ関の常識は、世間の非常識
ほかにも電波事業者には、政治家の地縁・血縁がうじゃうじゃいる。なぜかというと、放送事業者側が求めるからだ。「政治家とのパイプ」をちらつかせれば官僚は萎縮する。交渉を有利にすることができるし、場合によっては仲間になってくれる。
総務官僚は事業者に強いが、政治家に弱い。一方、政治家は事業者に選挙や献金で世話になるので頭が上がらないが、総務官僚はアゴで使うことができる。そんな「ジャンケン」のような3すくみ状態で物事を進めていくのが、昔ながらの放送業界の「ルール」なのだ。そのような意味で考えると、東北新社は実は「ムラの掟」を踏襲しただけにすぎない。
われわれ国民の感覚では、今回の高額接待問題は非常識極まりない話だが、放送事業者と総務省幹部からすれば、本音のところでは「東北新社も運が悪かったなあ、あれくらいのことみんなやっているのに」くらいの感覚かもしれないのだ。
どんな世界にもその世界でしか通用しない非常識なルールがある。しかし、それが社会全体に通用するわけがない。政治家や官僚に対してロビイングをする企業の担当者は、ぜひ「永田町・霞ヶ関の常識は、世間の非常識」を肝に銘じていただきたい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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