マツダ初の「MX-30 EV」 姿を現したフルスペックのGVC:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)
マツダMX-30にEVモデルが追加された。これがいろんな意味で非常に面白いクルマだったので考察してみたい。「これこそがマツダのEVへの回答」と受け止める向きもいるかもしれないが、それは半分だけ正解で半分は不正解だ。
という背景の中で、MX-30は今、この瞬間に「所与の条件下で、ユーザーメリットと社会環境、企業経営のバランスを素直に取るとこうなります」というありのままを正直にさらけ出したクルマになっている。正直というのは、バッテリーの未熟さをそのまま粉飾せずに商品にしたという意味だ。
もちろん、違うバランスの取り方もあり得る。例えば、テスラ型のアプローチで「価格にしわ寄せしてでもバッテリーを大量搭載して航続距離を伸ばそう」と思えば、技術的には可能性はある。
しかし、マツダは自らのブランドをプレミアムだと思っていない。1000万円のクルマにマツダのバッジを付けて売るだけの実力がないことを素直に認めれば、価格は上げられない。そこはプレミアムから入り、そのブランドを確立したテスラとは立ち位置が違うのだ。一番高いモデルが495万円。ギリギリ500万以下に抑えたところが、マツダの自己認識を象徴している。
価格をある程度に抑えるとなれば、価格に最も支配的な要素であるバッテリー容量を抑えるしかないが、何kWhに設定するかである。どうせ抑えるなら、その容量設定を論理的なものにしようとマツダは考えた。
そこで出てくるのが、原材料調達から、生産、利用を通じ、最終的には廃棄までに関わるCO2負荷をトータルで考える、ライフサイクルアセスメント(LCA)である。LCA条件下でCO2排出量を最小化できるバッテリー容量を割り出して決めた。その算出方法に大容量バッテリーEV派から異論が出ているのは知っているが、マツダなりの正論であろうとしたことは事実だろう。先に35.5kWhがあったわけではない。計算の結果それが違う数字になれば、その容量で設計するだけの話で、計算を粉飾する意味は全く無い。
というさまざまな問題の中でバランスを取った結果、ファーストカーとして使うには航続距離的に厳しい製品になるのは覚悟の上でマツダは35.5kWhのバッテリーを採用した。そこまで減らしても、従来の内燃機関やハイブリッド(HV)と比較して割高感は相当なものだ。21年現在のバッテリーの現状そのものがMX-30 EVをこういう着地点に導いたのである。敢えて厳しい言い方をすれば、バッテリーが半端物であるが故に、MX-30 EVもまた商品として半端物である。
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