どうしてこうなった 苦労して「ジョブ型」を導入したのに形骸化する理由 失敗を防ぐ制度設計・運用方法は?:いまさら聞けないジョブ型雇用(1/3 ページ)
ジョブ型制度の導入後、放っておくと“ジョブ”ではなく“ヒト”を起点とした人事運用が行われてしまいます。制度と運用の乖離(かいり)を防ぐにはどうすればいいのでしょうか。
今回は、前回で詳しく解説をしたジョブ型の人事制度を正しく運用するために、会社として力を入れるべき重要な点について話を進めていきます。これまでに何度か触れてきましたが、ジョブ型の人事制度には明確なあるべき姿があります。
それを簡単にいうと、「自分が担っているポストの職責に応じて報酬が支給され、職責の全う度を評価される制度」となります。この根本にあるのは「各ポストが求める要件に適した人材を、社内外から探し出してきて配置する」という、ジョブ型の思想です。この思想を実現するための基盤が、ジョブ型人事制度なのです。
日本企業の中には、苦労してジョブ型人事制度を導入したものの、運用がうまくいかずに制度が形骸化してしまった、という企業が決して少なくありません。悪い場合には、形骸化するのみならず、元の職能型でもなく、またジョブ型とも呼べない、何とも中途半端な制度に変質してしまった企業すら存在します。
どうしてこのようなことが起こるのかといえば、多くの日本企業に浸透し切っているメンバーシップ型雇用の思想が、ジョブ型雇用のそれとは相反するものだからです(詳しくは連載第1回をご覧いただければと思います)。ジョブ型制度の導入後、放っておくと“ジョブ”ではなく“ヒト”を起点とした人事運用が行われてしまいます。そうすると、人の処遇のためのポスト設計、年齢や年次による相対評価といった、およそジョブ型とは程遠い事態が発生することになります。
こうした制度と運用の乖離(かいり)を防ぐためには、人事に関する社員の考え方を改めてもらうことと、趣旨を曲げることなく制度運用を徹底する努力が必要になります。前者は制度導入に伴う社員へのコミュニケーション、後者は主に職務等級と評価運用に関する話です。以降では、それぞれについて詳しく見ていきます。
人事に関する社員の考え方を改めてもらう
先に触れたように、大半の日本企業では、これまでの人事の在り方と、ジョブ型人事制度が目指す姿との間には大きな隔たりがあります。何より、職務(ジョブ)が先にあって、そこに適した社員を配置する、という考え方が日本企業では希薄です。まずは社員個々人を見て、その人に適した仕事を割り振っていくのが、日本企業における人事の基本的な考え方です。
またジョブ型では、各人が担っている職務の価値に応じて給与を支給しようとするのに対し、従来的な日本企業では、社員の年次や過去の功績を重視して給与の水準を決めようとします。これも両者で決定的に異なる点です。こうした、日本企業の人事に対する考え方を全社的に改めない限り、いかに細かくジョブ型の制度を構築しても、間違いなく形骸化していきます。
ジョブ型人事制度を導入した企業によく見られる失敗例に、「処遇のためのポスト設計」というのがあります。ある社員の給与をそろそろ上げてあげたいものの、高い報酬が得られるライン長ポストには空きがない、あるいはこの社員がライン長には適した人材とはいえない。そういうときに、この社員を高く遇するために新しいポストを作ってしまう、それが処遇のためのポスト設計です。
事業的な要請からではなく、属人的な理由から組織の形をいじるのは、ジョブ型の思想に大きく反しますし、経営の効率性をも低下させてしまいます。そうならないためには、どうすればいいのでしょうか。
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