ジョブ型雇用とは? 人事制度の設計手順、職務等級・報酬・評価のポイントを解説:いまさら聞けないジョブ型雇用(1/4 ページ)
ジョブ型雇用を支える基盤ともいえる、ジョブ型の人事制度について解説。(1)職務等級の設計、(2)報酬制度の設計、(3)評価制度の設計という3ステップで、制度づくりの手順を説明します。
前回は、これからジョブ型雇用を考えるにあたり、必要な基礎知識や論点をお伝えしましたが、今回からはより深い内容に入っていきます。まずはジョブ型雇用を支える基盤ともいえる、ジョブ型の人事制度について解説します。
ジョブ型人事制度の概観
前回でも少し触れたように、ジョブ型の人事制度には明確なあるべき姿、言いかえれば完成形と呼べる型があります。その型を簡略化して記述すると、(1)各ポストの職責を明確にした上で職務価値の大きさを測定し、その大きさに応じてポストを等級に格付ける、(2)各等級の報酬水準は、職務価値を基軸に社外の人材市場を参考にして決定する、(3)各ポストの現職者は、職責を果たせたか否か、職責を果たすための能力を発揮したか否かで評価される──ということになります。
もっと要約すると、自分が担っているポストの職責に応じて報酬が支給され、職責の全う度を評価される制度といえるでしょう。職責が制度全ての起点となっている点が、ジョブ型といわれるゆえんです。
上記を人事制度の視点で見てみると(1)は等級、(2)は報酬制度、(3)は評価制度について、それぞれジョブ型の特性を表しています(図表1)。日本的な職能型制度と対比をすると、ジョブ型の特徴がより際立ってきます。
まず(1)等級に関しては、職能型の場合は人そのものを職能等級(あるいは職能資格)に格付けます。その名の通り、職務を遂行する上で必要な能力の多寡に応じて、その人の格付けが決まるというのが本来のセオリーです(実際には、人の能力を客観的に評価するのは極めて難しいので、年功的な格付け運用になっている企業が多いですが)。
一方のジョブ型は、人ではなくポストを等級に格付けます。ですので、当然のことながら、就いているポストが変われば等級も変わり得ます。職能型の場合、一度獲得した能力は損なわれることはない、という前提に立ちますので、基本的に等級が下がることはありません。しかしジョブ型の場合、より職務価値が小さなポストに異動した場合、等級が下がる事態も生じます。この点が両者の大きな違いになります。
次に(2)報酬制度で双方を比較すると、職能型の場合は社内の論理で報酬が決まり、ジョブ型の場合は社外の視点も入れて報酬を決める、という違いがあります。もちろん、職能型でも自社が属する業界の報酬水準を意識はするため、全く社外の視点が入っていないわけではありませんが、基本的には下位等級からの積み上がり感、上位・下位等級との差分などの要素で水準が決まります。
これに比してジョブ型の場合、それぞれの等級で人材市場の金額を参照し、自社の水準にどの程度の競争力を持たせるかを検討して決めていきます。ある意味で、社外を強く意識したオープン系の報酬制度だといえるでしょう。
最後に(3)評価制度ですが、評価の仕組みだけを取り出してみると、実は職能型とジョブ型の間に大きな違いはありません。大体の日本企業では、目標管理を用いた業績評価と、能力評価の2本立てで人事評価を行っています。この枠組み自体は、ジョブ型制度の場合も変わりません。
ただし、業績と能力の意味合いが両者で少々異なります。業績について言えば、職能型では各人の職務遂行能力に応じて業績の評価をします。つまり、個々人の能力を勘案して、「これくらいはやってもらわないと困る」という目線で目標を立てて、期末に評価をします。
ジョブ型の場合は、能力の多寡は関係ありません。各人が担っているポストの職責を果たせたか否か、それが絶対的な評価の基準になります。ポストの職責を年度末に全うした状態が、その年度の目標として設定されるのです。
能力評価について言えば、職能型だと保有能力、ジョブ型だと発揮能力を評価する、という違いがあります。保有能力と発揮能力とは別物です。保有能力の場合、持っていれば良しとするので、その能力が顕在化している必要はありません。
これに対し発揮能力は、行動として顕在化していなければなりません。ジョブ型における能力評価が、行動評価とも呼ばれるのはそのためです。ジョブ型制度の場合、第三者が見ても、行動として確実に発揮されている能力のみを評価する形になります。似ているようですが、両者には明確な違いがあるとお分かりいただけたでしょう。
ジョブ型人事制度の設計手順と重要なポイント
ここまでで職能型との比較なども交え、ジョブ型人事制度の概要と特徴を記しました。次に、制度の設計と導入手順を解説します。大きく見ると、その手順は(1)職務等級の設計、(2)報酬制度の設計、(3)評価制度の設計という3ステップになります。
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