「自転車界のインテル」を生んだ日本で、なぜ配達員に“批判の声”が出ているのか:スピン経済の歩き方(1/6 ページ)
自転車の部品を開発している「シマノ」が、海外で称賛されていることをご存じだろうか。世界のスポーツ自転車向け部品のシェアは85%で、その高い技術力から「自転車界のインテル」と呼ばれている。そんな企業を生んだ国で、「自転車ヘイト」が起きている。なぜかというと……。
少し前、新発売した電動アシスト自転車の現物を見たくて専門店を訪れたことがある。
購入を検討するにあたって、やはり手に触れてまたがってみたかったわけだが、その際にネットで紹介されていたモノと現物を比べると、スペックに細かな違いがあることに気付いた。ブレーキシステムが「シマノ」ではなかったのである。
お店の方によれば、もともとコロナ禍で生産スピードが遅くなっていたところに、ステイホームや公共交通機関回避の動きから、世界的に自転車需要が高まってシマノ製ブレーキの争奪戦が起きてしまったらしい。このメーカーでは入手の見通しがたっていないということで、他メーカー製のブレーキシステムに変えざるを得なくなってしまったという。
確かに、2月9日に発表された2020年12月期の連結決算で、シマノの最終利益は前期比22.5%増の634億円で過去2番目の高水準になったとして、島野容三社長が供給状況についてこんなことをおっしゃっている。
「(自転車需要は)大変な激増。欧米では小売店の在庫が不足している。フル稼働で供給している」(SankeiBiz 2月10日)
このような話を聞くと、「へえ、シマノって自転車部品とか釣具とかで名前はよく目にするけれど、海外でそんな人気があるんだ」と驚く方もいらっしゃるのではないか。しかし、実はこのシマノ、「海外で人気」どころのレベルではない。世界のスポーツ自転車向け部品のシェアは85%を誇り、その高い技術力から「自転車界のインテル」と称賛される世界的企業なのだ。
それが決して大袈裟(おおげさ)な話ではないことを示すのが、2.26兆円という時価総額である。
もともと世界的な健康・エコ志向の高まりから堅調に成長をしていたところ、コロナ危機でそれがさらに加速して昨年10月に時価総額2.2兆円に到達。当時は日産自動車、スズキ、JR東日本の時価総額を上回ったと大きな話題となった。一時的とはいえ、自動車や鉄道を扱う巨大企業よりも、自転車部品メーカーのほうを市場が高く評価したというのは、これからの世界で無視できない「SDGs」を象徴する現象といえよう。
欧米を中心にしたEVシフトと同様、電動自転車も急速に広がっている。EVモーターでシェア拡大を目指す「世界の日本電産」のように、シマノも日本経済を牽引(けんいん)するものづくり企業になっていくかもしれないのだ。
その一方で個人的にはどうにも釈然としないというか、不思議でしょうがないことがある。それは、世界で支持される「自転車界のインテル」を生んだこの国で、なぜ年を追うごとに「自転車ヘイト」ともいうべき、自転車への憎悪が高まっているのかということだ。
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