楽天グループ、2423億円増資に潜む「見過ごせない問題点」:磯山友幸の「滅びる企業 生き残る企業」(3/3 ページ)
楽天グループと日本郵政グループが3月12日、資本業務提携に合意したと発表した。だが、この提携、手放しに評価してよいのかどうか。2423億円増資に潜む「見過ごせない問題点」を指摘する。
テンセントが出資 情報流出リスクは深刻
今回の増資には、さらに問題がある。中国企業が日本国内の通信インフラを担う楽天に出資する点だ。
テンセントが開発したアプリ「WeChat(ウィーチャット)」について、米国のドナルド・トランプ大統領(当時)がダウンロードを禁止する大統領令を出し、連邦地裁によって執行差し止めになったのは記憶に新しい。アプリを通じて個人情報が中国政府に流出するのではないかという疑念があったからだ。中国ではWeChatを使う10億人の国民の会話や行動を監視できるようになっているとされる。楽天へのテンセントの出資は、経済安全保障の観点から問題ではないのか。
経済産業省が主導して2019年末に成立した改正外為法では、海外企業が指定業種の企業に1%以上の出資をする場合、届出を行うことが義務付けられている。指定業種の対象は、「国の安全」や「公の秩序」「公衆の安全」「我が国経済の円滑運営」に関わる企業で、「武器製造」「原子力」「電力」「通信」が国の安全等を損なうおそれが大きい業種とされている。当然、携帯電話事業を営む企業も対象になる。
外為法改正には「国による買収防衛策」という側面もあり、米国などの投資ファンドから批判の声も上がったが、経産省関係者によると、安全保障に関わる企業への中国企業の出資を警戒していたという。背景には米国の要請もあった模様で、今後、テンセントの楽天への出資も問題になる可能性がありそうだ。
今、国会では、総務省官僚への接待問題が追及されている。霞が関の他省庁の官僚の多くも「旧郵政省の利権体質は異常だ」と口を揃える。通信や放送など規制権限を総務省が握っているから、業者は官僚に「情報交換」と称して近づき、良好な関係を維持しようとする。業者と官僚の関係が近すぎるのだ。そんな最中に飛び出した「歴史的な提携」に総務省がどんな役割を果たしたのか。今後、徐々に明らかになってくることだろう。
著者プロフィール
磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP )、『2022年、「働き方」はこうなる 』(PHPビジネス新書)、共著に『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP )などがある。
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