企業も社長も「長寿」な日本 見て見ぬフリでは済まない「事業承継」のポイントとは?:「普通」の受け皿をなくさないために(2/4 ページ)
中小企業が多いことで知られる日本だが、実は「長寿」企業も多い。社長の高齢化も進む中、事業承継が大きな課題となりつつあるが、ポイントはどこにあるのか。
なぜ、日本には長寿企業が多い?
そもそも、なぜ日本には長寿企業が多いのでしょうか。筆者は、「いいもの」を積極的に取り込むという日本人の気質が影響しているのではないかと思います。これまでも宗教の信仰や、明治維新の近代化改革、第二次世界大戦後の復興など、過去の伝統を守りつつ、新しい環境を受け入れて再構築してきた歴史があります。このような気質が、長寿企業を多く輩出した一つの理由なのではないでしょうか。コロナ禍の中でも、社内のIT化に無縁だった長寿企業が、一気に在宅勤務を進める事例もありました。長寿企業の対応の柔軟性には驚くものがあります。
創業80年を超えたトヨタ自動車の創業一族である豊田家の家訓は「一代一業」として知られています。「自動織機」から始まった事業は、その後中心事業となる「自動車」事業、さらに「住宅事業」を興し、現職の豊田章夫社長は、静岡に「コネクテッド・シティ」を作る構想を立ち上げるなど、さまざまなチャレンジを行っています。豊田家の一族は、生まれた時から「一代一業」の事業家精神を教えられているそうです。このように脈々と流れる企業文化を重んじつつ、時代に合わせた変化を繰り返し、企業を継続していっているのです。その他の日本企業でも、多かれ少なかれこうした傾向があるのではないでしょうか。
社長も「長寿化」の傾向
帝国データバンクの「全国社長年齢分析」によれば、企業の社長の平均年齢は年々上昇をし続けているようです。21年1月の調査では60.1歳と、開始以来初めて60歳を上回るなど、人口と同様に高年齢化が進んでいます。また、日本政策金融公庫の調査によれば、中小企業の50%以上が廃業する予定と答え、事業承継を決定した企業でも、約30%が後継者の経営能力が課題と答えるなど、その難しさが浮き彫りになっています。
社長の高齢化が、一概に「悪」だとはいえません。ただ、中には後継者を見つけられずに社長が年齢を重ね、そのまま廃業に至ってしまう企業も多いはずです。特に長寿企業では、こうしたケースが多いのではないでしょうか。
長寿企業は「歴史と伝統を守らなければならない使命」を背負っています。長い年月培ってきた素晴らしい歴史と伝統。これは、企業のDNAとして踏襲され続けているものです。しかし、時としてこの歴史と伝統は「変化」に対して硬直的となる理由になり得ます。「これまではこうしてきた」「今までやってことがないから」と、過去と比較した否定になりがちなのです。長らく務めた経営者であれば、この傾向には拍車が掛かりやすくなるはずです。
そうならないために、「事業承継」の問題に真剣に取り組む必要があるのではないでしょうか。そこで、ここからは事業承継のポイントを、一つずつ見ていきましょう。
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